「なんて言うか…ツッコミどころ満載な部屋だな。」
おかしな感想をもらす永夜に、他に表現方法はないのかと抗議したかったが、生憎この部屋を完璧に表現できるような、ボキャブラリーを僕は持ち合わせていなかった。そんな訳で、文句を言っても意味が無い。
「お前の母親って何者?」
永夜が僕に尋ねながら電気をつける。
切れていないか心配だったが、何度か瞬いてしっかりと明かりがついた。
「な、何者って・・・普通の人だったと…思う…けど…?」
この部屋を見る前なら、断言できた。
しかし、この妙な部屋を見てしまった今では自信がない。
いや、でも普通の人だったハズだ。
少なくとも、僕の前では普通の人だった…。
だが、この部屋を見ていると違う気がしてくる。
はたして、前からこんな状態だったのだろうか?
そこで、こんな風にまともに母さんの部屋を見ることが、久方ぶりだった事に気がついた。
最後に見たのは、僕が小学生だった頃だ。
目の前に広がった世界は不思議なものだった。
壁や天井・床・カーテンも、全てが蒼い。そして、小さな化粧台や椅子といった家具は全てが白かった。
蒼と白の世界だ。それだけなら、まだマシだった。
白い棚の上に置いてあるものがかなり妙なモノなのだ。置いてある物は全部で七つ。それは全て異なる色をした招き猫だった。
赤い招き猫に始まり、橙・黄・緑・青・藍・紫と全部で七色。
蒼の世界の中に白いものが点在し、七色の「線」が存在する。
「青空と雲と虹って感じだな。」
同じ事を考えていたらしい永夜が呟いた。
「でも、何で招き猫なんだ?」
そして、当然の疑問を口にする。
「さあ?」
母は、何がしたかったのだろうか?考えてみるが、さっぱりわからない。
風水に凝っている訳でもなさそうだし…。
たまたま、招き猫だったのか、もしくは、招き猫でなくてはならなかったのか?どちらにせよ、大きく意味が違ってくる。
「この部屋は、このままにする…。」
「え?何で?掃除しないのか?」
「ああ。なんか、動かしちゃいけない気がするから。」
「まあ、確かに。全部意味ありげな位置に置いてあるもんな。」
部屋の物は全て、自然にそうなったと言われれば、そうなのだろうけれど、意味があってこうなのだと言われればそう見えてくる、そんな配置になっていた。
僕からしてみれば、部屋の扉を開いただけでも、大きな進歩だ。