手の中の鍵をもう一度握りなおし、ドアノブに手を掛ける。ノブの冷たさに、一瞬手が止まるが気にせずに握り締め、鍵を差し込む。
ところが、鍵は最後まで行きつかない。何度か力をこめるが、入る様子がない。
「かなた、鍵、逆。」
「え?あっ。」
ホントだという言葉は声に出さずに、鍵を差しなおす。今度は、何の抵抗もなくすんなりと入る。
カチャリ。
とロックが外れた音がする。
鍵を外し、ドアノブを握っている手を軽く捻る。扉を開くと、廊下から差し込むわずかな光りで部屋の中の様子が伺えた。
「普通の部屋だな。」
永夜が、ポツリと感想をもらす。
確かに、普通の部屋だ。安心する反面、どこか期待を裏切られたような感覚がある。
僕は、いったい何を期待していたのだろう?
部屋の中にあるものは、ベッドに机、パソコン、小さな箪笥、コルクボードに備え付けのクローゼット。こざっぱりとしているが、それはそれで父らしい部屋だ。
パチン、と音がして部屋に明かりが灯る。
「窓、あけていいか?」
ホコリ臭さはそこまで気にならないが、窓を開けるのは賛成だ。空気が悪い。尋ねられてはいたが、自ら窓を開けに行く。分厚いカーテンで閉じられた、外へと繋がる唯一のもの。
カーテンを開くと、まず見えたものは自分の姿だった。外は暗い。クレセント錠に手を掛け少し力を込めて、それを外した。
ガラッと、勢いをつけてレールの上を滑らせる。窓を開くと外の冷たい空気が一気に入ってきた。止まっていた空気が動き出す。それまで、嫌なものしか感じなかった空気が変わった気がした。
「何も見えないんだな。」
いつの間にか後ろに来た永夜が外を眺める。
「ああ、多分公園だろ?明かりないし。」
「ふ~ん。で?何から始める?雑巾がけ?掃除機?それとも、家捜し?」
にやりと笑いながら、永夜は聞いてくる。
実に楽しそうだ。
「普通、掃除ってのは高いとこから始めるもんだ。」
「じゃあ、何から?ホコリ掃いから?」
不満そうに聞く永夜に当然のように僕は答える。
「当たり前だろ?…家捜しからだ。」
「そうこなくっちゃ!」
二人して笑いながら、宙で互いの片手を合わせる。
パシン、と軽く音がして静かな部屋に響いた。
はい。
「ユメダト良カッタ」は本日ラスト。
お次はなんでしょう?
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