「もう、いいんじゃない?」
「え?」
永夜が呆れたような声音でそんな事を言い出す。
「もぅいいじゃん。別にさ。この時計は動きたいから動いてた。それだけ!」
同じような事を思いついても、表現の仕方がまるで違う。
「それに、世の中人間に解決できない事の一つや二つあったって、おかしくともなんともないよ。ほら、オレらっていう存在も十分におかしい訳だし。」
そこまで言われてしまうとまったく反論できなくなってしまう。
「止まることのない時計と、死ぬ事のないオレら。仲良くやっていけそうな気がしない?」
口を開かない僕を置いて彼は喋り続ける。
「だから、気にしないって事で。」
「だからの意味がわからない。」
「だから。気にしない、気にしない。」
ふざけた笑みを浮かべて同じ言葉を繰り返す永夜を見ていると、全てをどうでも良く感じ始めるから、不思議なもんだ。
本気で悩んでいる自分が馬鹿らしく思えてきて仕方がない。
「何でお前はそんなにのん気なんだよ?」
「え?」
思わず口にした言葉に、自分でも驚いたが、永夜のほうが意外そうな、驚きの表情を作っていた。
「そりゃあ、決まってんじゃん。人生楽しんだもん勝ちだから。」
当然のように胸をはって答える。
「長さなんて、結局のとこ関係ないんだよ。その与えられた時間・条件の中で、自分がどうやって生きるか、何をするか。それが、人それぞれの生き方に繋がる。何も行動を起こさなきゃ、何も起こらないまま終わるからね。」
しかし、人生そんな上手いこといかないだろう?言葉にはしないが僕の疑問は沈黙を保つだけで充分に伝わる。
「そりゃあ、上手く行かない事のほうが多いよ。でもさ、その中で時々、本当に上手く行く時がある。そんな時、すっごい楽しいって思えないか?」
永夜独特の人生の価値観。
「だから、オレは、常に全力で生きてきた。確かに、人よりずっと長く生きてるけど、その瞬間ってのは、その時だけで、今後二度と同じ状況には出会わない。毎回必ず何かが違う出来事が起こる。それは変わらない。」
僕は黙って彼の話を聞いていた。
手の中にある時計から、時を刻む音が聞こえてくる。
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