「向こうの、二部屋。」
「別に…。使ってないから。」
「そうなの?んじゃあ、何で向こうの空き部屋は、鍵掛かってないんだよ?」
まさか、そんな事訊かれるなんて思ってもいなかった。
「関係ないだろ。お前には。」
そうだ、関係ない。別に鍵が閉まってる部屋と閉まってない部屋があったって、関係ない。どうして、そんな意味のない事を訊いて来る?
「冷たいなー。ただちょっと、興味があっただけだよ。」
だったら、なお更だ。
「なあ?ちょっと見てみたいんだけど?」
「別に、何もないぞ。ただの部屋だ。」
「そうかな?オレには、ただの部屋には見えないけど?見たところ、まったく開けた気配がないし。さっき言った、空き部屋はちゃんと掃除されてるのに、鍵の掛かった部屋は、ここ何年か、まったく扉を開いた形跡がない。それどころか、鍵穴に鍵を差し込んだ形跡すらないってのはちょっと気になるんですけど?」
「…ッつっ。」
指摘されたくないことを指摘され、思い出したくないことまで思い出す。
思わず掴んだ胸は、いつも以上に痛かった。
どうして、こんなに痛いのか分からない。誰かに、心臓を鷲掴みされたような痛み。上手く動いてないのかもしれない。呼吸が詰まる。
「お前には関係ない。」
何とか、言葉にできたのは、その一言だけ。
「何で?」
「何でって…」
答える間もなく、彼は次の言葉を紡ぐ。
「関係ないなら、見てもいいよな?」
いつもの、彼らしくない表情。いったい何を考えている?
「…何で、何で、そんな痛そうな顔をするんだ?何がお前を縛り付けているんだよ?」
痛そうな顔をしているのは、お前の方だ永夜。なぜ、そんなにも気にするんだ?
言っている意味がまるでわからない。
「あの部屋は、何の部屋なんだよ?」
答えられない、絶対に。
答えたら、コイツは絶対に中へ入ろうとする。それだけは、ダメなんだ。
開けてはいけない部屋なんだ。
どうして、なのかは分からない。
ずっと、そう思ってきた。あの部屋は絶対に開けてはいけない。開けてしまったら、きっと何かが壊れてしまうから。
「開けちゃだめなんだ。」
知らないうち、僕は喋っていた。
「あの部屋は、絶対に開けちゃだめなんだ!だって…」
そこまで言って口を噤む。これ以上喋ってはいけないと頭の中の警告音が言っている
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