「悪かったな。押さえててやるから、さっさと取れ。」
椅子の背もたれに手を掛け彼を促す。
「結局オレがやるの?」
「お前な・・・。」
わざと声を低く出し、彼を睨みつける。
「分かった、分かりました。オレがやらせて頂きます。よっと。」
「落とすぞ。」
彼の言葉を聞き、椅子から一端手を離す。
「うわ、それは痛いからやめてください。」
椅子の上から見下ろす形で、僕の顔を見ながら彼が痛そうな顔して言うので、椅子を押さえることに集中する。
「どうだ?」
彼が時計を手に取るのを確認してから、声をかけた。
「う~ん。太陽電池なのかなとも思ったけど違うみたい。普通の電池で動く時計だ。ほら。」
時計を指し出され、それを受け取る。
「ほこりまみれだな。」
「そりゃあ、そうでしょっと。」
タンっと危なげも無く、椅子から軽く勢いをつけて永夜は飛び降りる。彼の反動で椅子が少しだけ動いた。
「普通だな。」
何も変わったところなんてない。そこまでは声に出さずに時計を確かめる。裏側には電池を入れるスペース・時間を調節するネジと製作者のサインが存在するだけで特に目立った特長は無かった。
「一之瀬家の七不思議ができそうだ。」
「何だよ、それは。」
「不思議その一、瓶に入った遺灰。その二、七色の招き猫たち。その三、箱に入った古いカギ。そして、その四、動き続ける時計って。」
それっぽいタイトルを挙げてゆき、少し得意げに感想を待っている。
「残り3つは?」
「え?そっちに話し持ってくの?」
「もうネタ切れなんだろう?」
「じゃあ、大募集中ってことで。」
「逃げるのかよ?」
「違う違う、皆で参加型のイベントなんだよ。」
「もう、訳分かんねぇ。」
冗談半分に会話をしていても、事は先に進まない。
「それに、今は時計の話をしてるんだ。話をずらすな。」
時計片手に、原因は何かと考えてみるが、ふと気づく事がある。
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