「現実だろうが、非現実だろうが、夢を見るのは大切なことだと、オレは思う。」
そして、何の前触れもなく語りだす。
「そもそも、最初に思ったのはオレがまだ十歳にもならない頃だ。ちょっと変わった、蒐集家のじい様に悪魔召喚と不老不死の話聞いて、何でか自分にならできると思った。単純な興味からなんだ。べつに、心からなりたかったわけじゃない。」
手に持ったカップはそれ以上動くことはない。変わりに僕が、一口だけゆっくりと飲み込んだ。
「その時は周りの世界なんて興味なくて、ただじい様がしてくれる話だけがオレの世界だった。けど、あの人も結構な年だったから、そんなに長くはなかった。うん。それからは、じい様が残した部屋がオレの世界になった。」
「らしくないな。」
「昔の話だからな。」
どこか、悲しげな笑顔で彼は言う。今では想像もつかない彼の世界の狭さ。
「けど、すぐに飽きるんだ。こんな世界は本当の世界じゃない。もっと、もっと広いはずだって。だから、そこから出る事を考えた。単純に勇気が欲しかったんだ。自分は何でもできるんだ、どこにでもいけるんだっていう。」
不透明な世界観。全てを語っていないだろうということはすぐに分かった。彼の言葉は、過去のほんの一部分にしかふれていない。
「それが、召喚して願いをかなえる事に繋がった。じい様にもできなかった事が自分にできれば、本当の自分を見つけられる気がしたんだ。」
「それが、理由か?」
「そう。大した理由じゃなくて悪いけど。」
「で、見つけられたのか?」
「何が?」
「本当の自分ってやつ。」
「うん。そうだね。見つけられたんじゃない?」
「曖昧だな。」
「そんなもんだよ、人生って。・・・成功したって分かってからは、勿体無いと思って部屋にあったもの全てに目を通した。それまで、まったく興味のなかったものをね。無知な事が怖いと思ったんだよ。でも、逆に色々と知る事が楽しいと気づいたんだ。だから、まずは知るための旅に出た。」
彼が良く口にする言葉「時間だけはたっぷりあったから」という言葉が甦る。良く分からない豆知識を彼独特の言葉で語っていた。それは、そんなに前から記憶していた事だと言う事だ。
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