「月光?って普通、悪魔は満月の夜は、こう、力が漲ったりするんじゃないのか?」
「ん~。普通がどうか知らねぇから何とも言えないけど。オレの場合は満月の夜、月の光りを浴びると、姿が変わる。」
満月の夜。「月」で姿が変わる?
「狼男?」
「………。」
何かまずい事を言っただろうか?妙な沈黙が訪れる。
「全身毛だらけの?」
永夜に振られ、狼男のイメージを考える
「どこら辺が狼か良く分からない」
すると永夜も乗ってきた。
「なぜ狼なんだろうな?熊でも良くないか?」
「熊男?それはちょっと・・・」
「だよな。でも、あれも矛盾点が多いよな」
「お前もな」
「っふ、はははは・・・もう無理我慢できない」
と彼は盛大に笑い出す。
……なぜこんなにも笑われているのかが、理解できない。何だっつーんだ?
「おい。何がおかしいんだよ。」
問いかけても、返事はない。
なんか、ムカつくんですけど?
いっそのこと蹴りでも入れてやろうかと、本気でそう思い始めた頃、彼はようやく復活した。
「いや、悪いっ。でもさ、くっくっ・・」
そう言う彼はまだ、笑いを堪えている。
「俺は今、無性に腹が立つんですけど。」
「いやっ、だっから、悪いって言ってんじゃん。だってなあ。」
「だって、何なんだよ?」
「姿が変わるってのは、老いるって意味だよ。しかも、一気に、月光を浴びた瞬間にね。」
「…そんなっ。それじゃあ…」
「そっ。ある意味、完璧な不老不死ではない。しかも、老いるって言っても、普通じゃ考えられないほどオレは生きてる。だから、老いるイコール死を意味する。そうゆう訳でオレは満月の日は傘をさすんだ。コレ、けっこー気にしてることだったんだぜ?そうか、でも、ある意味狼男だよな。はは。」
だから、満月の夜は外へ出ることは滅多にしない。
「今日はホント、どうなるかと思ったよ。」
彼は最後にそう付け足した。そして、お前は絶対にそんな事にはなっていない、とも。
確かに、僕は今日、満月の下を歩いている。
しかし、なぜそんなことになったんだ?
「だから、召喚して、契約した悪魔を殺したから。最後の抵抗ってやつ?いちいち説明してから消滅してくれたから、オレは助かったけど。」
「悪魔を殺すとそうなるのか?」
「さあ?オレ以外の事を知らないからな…少なくともオレはそうなった。」
さっきから、こんな答えばかりだ。そもそも、悪魔を殺すなんてどうやって…?
「それは、企業秘密。」
尋ねてみるが、スルリと交わされる。
微笑みながら、そう答える彼は少し怖い。
「だって、お前。オレがこの方法を思いつくまで何年かかったと思ってんだよ。絶対に、タダじゃ教えないぞ。」
「金を払ってまで知りたくない。」
「あっ、そう…?」
少し、残念そうに答える彼に、ならばと期待込めて聞いてみる。
「ああ。何だ?訊いて欲しかったのか?」
「いんや、全然。それより、他に知りたいことは?」
やはり、軽く交わされる。
何があるのだろう。
「無いよ。なんか、お前の話し聞いても役に立ちそうもないし。」
彼には、後半の言葉は聞こえていなかったらしく、適当に相槌を打ちながら、窓際へと移動して行く。
心なしか、その後姿は寂しげだ。何故、今このタイミングで席を立ったのだ?
そんな事を、考えたのも一瞬で直ぐに思考は切り替わる。
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