「おか・・・しくない・・・か・・・?」
「そうか?」
人をバカにしたような笑みを浮かべながら、こちらを見てくる。
「だって、血…。」
「血が止まってるだろう?ちょっと待ってろ。」
そう言いながら彼はズボンのポケットを探る。
「ほら。」
出てきたのは、小さなライト。それで、先ほど切ったところをライトアップする。
何で、コイツ、こんなに何でも持ってるんだ?
そんな事を考えながら、彼の手首を見る。
「ない…。」
「だろ?」
「だろ?」じゃないだろう?なぜないんだ?おかしいだろう。さっきのあれは偽者か?でも、下にはおびただしい量の血の水溜りが出来ている。
けれど、これが血液だという証拠はどこにも無い。ただ、鉄くさいだけで赤いだけの、何か違う液体かもしれない。
「言っとくけど、本物だかんな?」
「……。」
「あっ、お前、マジ疑ってやがんな?何のために目の前でやったんだよ。見てただろう?」
確かに、証拠はないが疑う余地もない。
僕の目の前で、彼が手を切り、血が大量に出ている。何かトリックでも使ったとか?
でも、そこまでして何がしたいんだ?
そう考えていくと、やはり本物だという線が濃い。
「うっわ、ここまで信じてもらえないなんて想像してなかった。出血ショーまでやったのに!おっ、これぞ正に出血大サービスじゃん!!」
嬉々としてそんなことをしゃべっているが、今はそれどころではない。いったいこの状況をどうしたらいいんだ?
「ん~。んじゃ、もう一回訊くよ?たったの二択だ。かなたの思った方を答えればいい。」
そういいながら、いつもの本当に嬉しそうな時の笑顔を見せる。
ああ、なるほど。
「自分の思うがままに、キミも自由と、永遠を手にしてみないか?」
先ほどした質問とまったく同じ質問をしてくる。あえて、違うところあげるならば、彼の表情だ。とても楽しそうな笑顔を浮かべている。
その質問に僕は一言、簡潔に答える。
「イエス。」
ニヤリ。
と彼は笑う。
先ほどの笑顔を見て僕は決めた。例えコレが冗談だったとしても、それに付き合って何の損がある?仲のいい親友のためにこれくらい付き合ってもやっても良いじゃないか。仮に本当だったとしても、それこそ最高の誕生日だ。
どっちにしたって僕は、何も失う物はない。
「全てを捨てる覚悟がお前にはあるか?自分の願いを叶えるために、お前はどれだけのモノを捨てられる?全てお前次第だ。」
これもまた、同じ質問。ってことは最後まで一緒だろう。
「選択肢は二つ。」
軽く右手を上げ、ブイサインをしてくる。
「YES or NO?」
違ったのは表情だけ。やはり、どこか、とても楽しそうな笑顔を浮かべている。
僕は、コレにも一言で簡潔に答える。
先ほどとは、少し発音を変えて。
「YES」
「OKかなた。オレ、天崎永夜改めヒサヤ・キアロ・デフェルと一ノ瀬かなた。ここに契約を結んだことを記す。」
そう言いながら、彼は僕の左目へと手をかざした。
もう何度も見た、あの嫌な笑顔をみせながら…。
気がつくと、外は晴れ渡っていた。今日は新月だったらしく、星だけがキラキラと輝いている。明日は台風一過ですばらしい天気になるだろう。
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