「さて、多分長くなるから座った方がいい。」
「ああ。」
廊下からの明かりのおかけで辛うじて彼の表情が確認できる。促されるままに、近くにあった椅子を引っ張り出し、背もたれを抱え込むようにして座った。
窓を背にして机に座る彼と、真正面から見合う形だ。若干、見下ろされているところが気に入らないが、まあいいだろう。
僕が見下ろされているのはいつもの事だ。
「いいか?これからする話は、冗談なんかじゃない。本当の事だ。お前だから話すんだ。」
また、窓の外が光る。
一瞬、教室の中が昼間のように明るくなった。再び、闇が訪れたと認識した次の瞬間には、雷鳴が轟く。確実に、光と音の間隔は短くなっている。
「返事は?かなた。」
「あっ、ああ。分かった。」
先ほど感じた威圧感が再び戻ってきた。これで、気のせいじゃなかった事が証明された訳だ。
証明されたからと言っても、何の役にもたたない。
この、変な状況はまったく変わらない。
「いいか?これから話をするのは、オレであって、オレじゃない。」
もうすでに、話しが理解できない方向へ向かっている。
「意味が分からない。」
「だから、オレ、天崎永夜ではなく、ヒサヤ・キアロ・デフェルが話すんだ。」
「・・・。」
一気に眉間に皺がよる。
無意識にそうなったのだから仕方がない。言っている意味が分からない。いきなり、こんな妙なことを言われたら、誰だってこうなるだろう。
それに、彼のしゃべり方は周りの空気とはアンバランスで、変な風に明るい。語尾に音符マークかハートマークがつきそうなほどに明るいのだ。
ますます、彼が妙な奴に見えてくる。
「何だって?」
「もういい。黙って聞いてろ。」
そんな台詞とともに光と音が同時にやってきた。
そして、一瞬にして世界が変わる。
どこか、蒸し暑さを感じていた教室は、一気に気温が下がり長袖のワイシャツ一枚では肌寒く感じる。
居心地の良い教室にいたはずが、どこか知らない場所にいるようだ。
今すぐにでも、逃げ出したかったが、体が思うように動かない。
反応しないと言うべきか?
嫌な汗が背中を流れている。
はたして、自分は今、何をやっているのだろうか?
もしかしたら、金縛りにあったらこんな感じだろうか?
おかしな事に、体は恐怖を感じているのに、脳の方はそうでもなかった。
現に、物事を冷静に見ることができている。
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