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遼 莉杏
性別:
非公開
自己紹介:
自称、「言の葉」使いの物書き。

遼 莉杏と書いてハルカ リアンです。


最近のマイブームは
『薬屋探偵妖綺談』シリーズ
羞恥心

創作仲間・相互リンクしてくれる方を常に募集中。
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読めなかった手紙 5

本当ならば店の営業時間は午前10~午後10時まで。
決まってはいるが、基本はマスターの気分次第だ。オープンする時間が変わる事は少ないがクローズの時間にはかなり差がある。
それも、常連客のあの3人に左右されることが多いが、ダレもいなくとも夜遅くまで開いている事もあるらしい。
「それじゃあ、テーブルを全部綺麗にしてもらっていいかい?」
「はい」
「それが、終わったらモップかけて。やることは朝と一緒だから」
マスターが3人が使った食器を綺麗にしている間、オレは掃除に取り掛かる。
それほど広くない店内の掃除は、棚に置かれた瓶を綺麗にする事を含めても30分もかからない。
だからこそ、開店当初の綺麗さを保っているのだろう。
「逸貴くん。夕飯、一緒にどうだい?」
「え?いや、いいっすよ。昼も頂いちゃいましたし」
昼は、あの2人と共に食べている。
賄だと言われて出されたので、ありがたく頂いておいたが、夕飯まではお世話になれない。
「一人で食べるのは寂しいもんでさ」
らしくない沈んだ声で言うマスターの顔は心なしか笑顔だ。
オレが断れない事を知っていると言うことだろう。
「分かりました。じゃあ、オレも作るの手伝います」
「おや、逸貴くん。料理できるのかい?」
「・・・・・・・。手伝うくらいなら・・・」
詩望は料理が苦手だと言っていた。いつだったか、食べた事があったのだが、それはお世辞にも美味しいと言えるものではなかった。後で聞いてみると調味料の量を見間違えていたらしい。
マスターの指示通りに野菜を刻んでゆくが、何が出来上がるのかは想像がつかない。
家では見たことない料理なのかもしれない。
「何を作るんすか?」
「それは出来てからのお楽しみ」

店は掃除を済ませてしまったので、自然と食事をする場所は事務所になった。
「そうだ。逸貴くん」
「はぃ?」
食べ終わって、いつもの癖で手を合わせているとこで名を呼ばれ、不自然に声が裏返る。
「レジ横の瓶の中身を抜いてきてもらっていいかい?」
「分かりました」



綺麗な空色の瓶はいつも空っぽだったけれど、赤い夕焼け色の瓶の中にはいつも白い紙が入っていた。それが、手紙だということを手にして初めて気づいた。
「ありがとう。それはね、妻に宛てた手紙なんだ」
部屋に入ったことだけを確認して話始めたマスターの前には、既にコーヒーカップが二つ並んでいる。
食器はもう下げてしまったらしい。
「僕の昔話を聞いてくれるかい?」
コーヒーカップを差し出され、目を合わせて問いかけられては、断る事はできない。
もっとも、最初から断る気はまったく無い。
こくり、と大きく頷いてからマスターの向かいに座った。
「僕は、妻にありがとうと言えなかったのが心残りなんだ。だから、毎日手紙を書くんだよ」

長いようで短いマスターの昔話。
静かな声でゆっくりと語られたその内容は、何の抵抗もなく涙を流させた。
「実はね、同じ話を詩望ちゃんにもしてるんだ。ちょうど、去年のクリスマス。逸貴くん遅刻してきただろう?」
「あ~、しましたね。遅刻」
末の弟が高熱を出し、出かけないでくれと駄々を捏ねられたのが原因だった。
あの時ばかりは次弟の存在に感謝したものだ。
理由を話すと、詩望は笑って許してくれた。ついでに、帰ってあげなとも言われたが、そこは次弟の存在を理由にどうにかして誤魔化した。
しかし、自分の中で今そんなことはどうでも良かった。マスターの手紙の話を聞いて、あるものの存在を思い出した。
彼女が死んでから届いた一通の手紙。
机の中の奥底で眠っているだろう手紙は一度も封を開けていなかった。
「スミマセン。マスター、オレ用事思い出したんで帰ります」
「ああ。外は寒いから、気をつけて帰るんだよ。今日はありがとう」
「はい。ありがとうございました。あの・・・」
「どうしたんだい?」
「明日も来ていいですか?」
「もちろん、待っているよ。逸貴くんが来てくれなきゃ、僕が歌理さん達に怒られてしまうよ」
「はい!ありがとうございます。じゃあ、また明日」
頭を下げてから、一気に走り出す。
彼女に、返事の手紙を出したかった。
彼女の手に触れることはないと分かっていても。
どうしても、彼女に伝えたい事があった。


 
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