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プロフィール
HN:
遼 莉杏
性別:
非公開
自己紹介:
自称、「言の葉」使いの物書き。

遼 莉杏と書いてハルカ リアンです。


最近のマイブームは
『薬屋探偵妖綺談』シリーズ
羞恥心

創作仲間・相互リンクしてくれる方を常に募集中。
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読めなかった手紙 2

通いの喫茶店のマスターに、アルバイトに来ないかと誘われたのはクリスマスの日のこと。

「クリスマスが終わったら、次はお正月か・・・。一年ってあっという間だねぇ」
カウンター席に座った歌理さんは天井を眺めてそんな事を呟いた。
「どうしたんだい、歌理さんらしくない。何かあったかい?」
「ん~、約束の3年があと一年なの」
「約束…ですか?」
「あれ?イツくん興味ある?」
「あ、いえ。スミマセン」
人のことを詮索するのは良くないことだ。そう思って、反射的に謝ったが、歌理さんは笑顔で話を続ける。
「うちの親とね約束したの。大学卒業して3年経ってもやりたいこと見つからなかった、大人しく帰ってきなさいって」
「さ、どうぞ。逸貴くん。歌理さんはね、大きな旅館の娘さんなんだ」
コーヒーカップを歌理さんの前に差し出してから、マスターが簡単に説明してくれる。
「え・・・?」
思いがけない単語が出てきて、思わず歌理さんを凝視した。
「ってことは、将来・・・女将さん?」
「あはは、似合わないって思ってるでしょ?」
「そんなことないっすよ。イメージが浮かばなかっただけです」
「言うねぇ、イツくん」
「歌理さん、着物着ると美人だよ」
「マスター?それじゃ、普段の私が美人じゃないみたいじゃん」
悪戯っぽく笑いながら、歌理さんが抗議する。
「おっと、それは失礼」
「着物美人は私より、詩望ちゃんだよ。お正月の晴れ着姿、綺麗だったなぁ。あ・・・」
「歌理さん、何か食べるかい?」
失敗したと言わんばかりに、歌理さんは口を噤み、それをフォローするようにマスターがまったく別の事を尋ねた。
「ええ、凄い・・・似合ってましたね」
「イツくん・・・」

彼女は、詩望は何かというと、この店に来たがった。何でもマスターが死んだ祖父に似ていたらしい。初詣に行く前や、夏祭りに行く前にもここで待ち合わせた。
その度に常連客たちにお前は私服のままなのかとからかわれたのだ。
 
どうせ何の予定もなかったので、オレはその話を喜んで引き受けた。
時給750円の食事付き。


「マスター、隣のケーキ屋さん今日は休みなの?」
扉を開けるなりマスターに話し掛け、そのまま喋りながらカウンターに着く。
「いらっしゃい。ああ、なんでも大切な用事があるらしいよ」
オレは、そんな彼にまず水を出す。
「残念。買って帰ろうと思っていたのに」
「へぇ~、ササ君もケーキ買うことあるんだね」
早速会話に加わる歌理さんは、からかうような口調で彼を迎え入れた。
「なんだよ、歌理。俺だってたまには家族にって思うんだよ」
「誕生日かい?」
「そう。うちのおかんのバースデー。ところで、何かあったのか?」
流れるような会話が、突然せき止められた。声のトーンを落として、尋ねてきた内容はまるで何のことか分からない。
「何が?」
尋ね返した歌理さんではなく、オレに視線を合わせて真剣な表情で同じような言葉を繰り返す。
「イツ、何があったんだ?」
「何がって、何すか?」
「だって、その格好・・・」
「そんなにおかしいですか?」
「いや、どこのホストかと思った」
「・・・・笹帆さん、コメントが歌理さんと良い勝負です」
「しまった・・・。次までに、もっといいの考えてくる」
笹帆さんは大げさに頭を抱え込み、反省している。
「ササ君、それはどういう意味かな?」
「ダレにだって、負けたくない人間の一人や二人いるもんなんだよ」
「お、言うね。笹帆くんの相手は歌理さんなのかい?」
「ん、まぁ。迷子仲間だから」

詩望が倒れたのは、その冬初めて雪が降った日だった。
学校に来る途中、駅のホームで倒れたらしい。彼女は1週間前から風邪を引いていた。だから、それを拗らせただけだと思っていた。
入院すると聞いた時も、すぐに退院できるだろうと信じていた。
しかし、彼女はもう二度と病院から出る事はなかった。
もうだめらしい。
そんな事を、彼女の両親から聞かされた時の事を今でもはっきりと覚えている。

お昼の時間になると、近所の会社に勤めるOLやサラリーマンが何人か食事を取りに店へやってきた。



 
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