「何か違和感あるんすけど?」
「ははは、そんなこと無いよ。似合ってるよ」
そういうマスターの表情は笑いを堪えている状態で、とても褒められているとは思えない。
「笑いたいなら笑ってください。その方が、マシっす」
「いや、見慣れていなからね。逸貴くん、制服着てても、かなり着崩してるだろ?」
「あ~そうっすね。自然とあ~なるんすよ。」
「自然にか・・・。きっと歌理さんが大喜びだよ」
苦笑交じりのマスターはどこか楽しげだ。
「・・・あんま、会いたくない気がします」
「きっと、オープン一番に来るよ。さあ、掃除をしてしまおう。」
「はい。よろしくお願いします」
彼女からもらった手紙はずっと机の中で眠っていた。
読むことができなかった。
封を開ける事すらしていない。
「いらっしゃい」
ギィーっと扉が軋む音がして客が来たことを知らせる。マスターはその音と同時に客へと声をかけた。
「あ、いらっしゃいませ」
マスターに習い、俺も慌てて声をだす。
「・・・・・・・」
しかし客は、扉の前に立ち尽くしたまま動かない。
「どうしたんだい。歌理さん」
「どうしたの!イツくんが・・・」
何故そこで黙るのか、彼女の視線はオレを見たまま動かない。
「ああ、似合うだろう。僕が選んだだよ」
「・・・・きゃははははは・・・!」
数秒の沈黙の後、最初の客こと歌理さんが凄い勢いで笑い出す。
「歌理さん。そんな笑わないでくださいよ・・・オレ、明日から来れなくなるじゃないですか」
「あははは、はは、ゴメン。だって、ははは。何か七五三みたいだね」
「褒めてないっすよね?それ」
「え~、カッコイイよ。うん。大丈夫」
「そんな、笑い堪えながら言われても、説得力ありませよ」
「いつものでいいかい?」
「あ、うん。マスターありがと」
「逸貴くん。カップを用意して」
「はい」
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