ボクが戸惑っているとヨアケはフェンスの上に立ち上がった。
フェンスの高さは結構ある。
多分、140cmくらい。
自分の身長から考えたから結構正確だ。
「大丈夫、落ちることはないよ」
フェンスに近寄って触れてみる。
視線の先には先ほどまでいた場所がずっと下に見えた。
ぱっとフェンスから手を離してボクは呟く。
「無理だよ」
「大丈夫、ほら」
ヨアケは先ほどから同じ台詞を繰り返していた。
そして、ニッコリと笑って手を差し出してくる。
「掴まって」
ボクには無理だ。
こんな高いところには昇りたくない。
けど、やっぱり昇ってみたいという気持ちもあった。
迷っていたけれどボクは無意識にヨアケに手を差し出していた。
その手を掴まれ、グッと引っ張られる。
「わっ!待ってってば、ボク乗るって言ってない!」
突然の事と恐怖とでちょっとしたパニック状態でボクは叫んだ。
「もう遅いよ」
また、ヨアケの声が近くで聞こえる。
彼の言葉で自分がいる場所に気がついた。
ヨアケと同じようにフェンスの上に立っている。
あれ?
怖くない。
いつもは見えないようなところまで
ずっと遠くまで見える。
フェンスの上から見下ろした景色は
今まで見たことのないものだ。
隣を見るとヨアケは可笑しなポーズをとっている。
右手を腰にあてて左手は帽子のつばを押し上げるように
敬礼のポーズを取っていた。
それを見てボクは思わず噴出した。
「おや、失礼だね。コウタ君。
でもね、こうしていると気分がいいんだ」
「へぇ~」
不審そうにボクは相槌を打つ。
「おや、疑っているね。試しにやってごらんよ」
台詞の最後にニコリと笑うのを忘れない。
そんな姿を見てボクもなんとなく真似てみる。
「ほら、何か。この世界は私のものだって感じがしないかい?」
そう言いながら、両手を腰に持っていく。
「あははは!何か変だよヨアケさん」
「よし。ようやく笑ったね」
「え?」
「ずっとここに力が入っていたからね」
ヨアケが自身のおでこに手を当てて笑っている。
「じゃあ、行くよ」
「行くってどこ?」
「行ったろう、虹の秘密を見に行くんだよ」
その言葉を最後にヨアケの姿が消える。
うそ!落ちた?
「ヨアケさん!」
「はい、何でしょう?」
突然彼は目の前に現れた。
「へ?」
さっきまで、並んで横に立ってたのに?
「なんで?」
「だってコウタ君、こうしないと虹の秘密は見にいけないよ。
ほらキミをいつまでもそこに突っ立てないで」