相変わらず笑顔を貼り付けたままヨアケは
ボクの行動を見守っている。
彼の後ろには先ほど架かったばかりの大きな虹が見えていた。
「大丈夫。信じる事が大切なんだ・・・とはダレの言葉だったか」
「え?」
単にボクに自分を信じろと言いたいのかと思ったが違ったらしい。
仮面の様に張り付いてた笑顔を取り去り
真顔のヨアケがボクを真っすぐに見る。
「信じていればなんでも出来るというのは
大間違いだと私は思う。しかしね、コウタ君。
たまには何の根拠もなしに人を信じたりしてみてもいいと思うんだ。
別に私じゃなくてもいい。例えば・・・お母さんとか?」
「何のこと?」
「私じゃなくて、キミ自身に聞いてごらん。
さあ、行こう。虹が消えてしまう前に」
彼特有の笑顔が戻ってくる。
すっとボクから離れていく。
置いていかれるのかもしれない。
なんだか良くわからないけど、無性に彼に対して腹が立ってきた。
彼に出来たんだ。
ボクだってできる。
現にここに来たのだって良く分からない方法だったし。
だったら、飛んでやる。
めいっぱい息を吸い込み、一度止める。
目を閉じて。
一歩を踏み出した。
ゆっくりと足を下ろした。
何もない空間にそっと体を傾ける。
ガクン
っつ!
落ちる!!
一瞬の出来事だった。
「コウタ君!」
ヨアケの声が遠くで聞こえた。
頭の中が真っ白になり、浮遊感だけが体を包む。
「コウタ君!」
再び彼の声が響く。
呼ばれてる、返事をしなきゃ。
でも、声がでない。
ダメだ、返事しなきゃ。
うっ・・・。
息が出来ない。
手足をバタバタさせて、空気に逆らう。
「コウタ君、落ち着いて」
すると、ヨアケの声がすぐそばでする。
不思議に思い、いつの間にか瞑っていた目を開けた。
「あれ?」
「大丈夫かい?」
ニッコリと微笑むヨアケの顔がすぐ目の前にあり、その向こうに
青空がある。
「ふっわぁ~」
体の中にめいっぱい溜めていた空気を吐き出した。
緊張しすぎて呼吸することを忘れていたらしい。
「飛んでる?」
改めて自分がいる場所を見回して確認する。
「飛んでいるというより、浮いているかな?」
ヨアケが一々訂正してくきた。
悔しいので、彼を睨んでからその向こう。
いまだそこにある虹に視線を移した。