読めなかった手紙 1
『逸貴へ
最後のありがとうがいいたくて、この手紙を書きました』
彼女からの最後の手紙が家に届いたのは、初七日の昼だった。
家から出るついでに、ポストを見ろと母に命じられ、久方ぶりに覗いたポストの中に自分宛の手紙が一枚入っていた。
宛名の文字を見ただけでダレからのものかはすぐに分かった。
封を開ける事なく、制服のポケットに入れてオレは彼女の家に向かった。
「はよーざいます」
まだ、オープン前の店の扉を開き、中にいる人物に声をかけた。
「ああ、おはよう。逸貴くん」
カウンターにいた彼は振り向き、優しげな笑顔で、オレを向かえ入れた。
「あの、よろしくお願いします」
「いや、こちらこそ。無理やりお願いして悪かったね」
白いワイシャツに、ワイレッド地にチェックの柄が入ったベスト、黒のパンツを履いたマスターがモップとバケツ、掃除セットを持ってカウンターから出てきた。
「あ、えっと、あの全然そんなことないっすよ。嬉しかったです」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。じゃあ、初仕事と行く前に、これを・・・」
そう言って、バケツの中から袋を取り出し、手渡された。
「何すか?これ」
「はは。さすがにその格好とは行かないからね。僕のこだわりだよ。裏で着替えておいで」
その格好、と言われて自分の姿を見下ろす。
履き古したジーパンと、Tシャツにジャケットという出で立ちだった。
確かに店の雰囲気にも合わないし、接客にも向いていない。
そんなことにも気づかなかった、数十分前の自分が腹立たしい。
「あぁ、スミマセン。何か、何も考えてなくて・・・・」
「構わなさ。そのために用意しておいたんだ。さあ、早く着替えておいで。掃除をする時間がなくなってしまうよ」
「あ、はい。行ってきます」
「裏」はカウンター奥の扉の向こうにある。
事務所としても使われるここは、マスターの私物が置いてあり、その奥の階段を上がるとマスターの居住スペースだ。
袋を開けると、中から出てきたのは黒いパンツに白いワイシャツ、黒のベスト。
「ホスト・・・?いや、バーテン・・・?」
どちらでもなく、喫茶店のボーイなのだがなんとなく抵抗を覚える服装だった。
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