・*・。*『くだらない会話 編』・*。・*
「決めた!今年オレはサンタになる!」
「どうぞ、ご自由に」
赤鼻のトナカイ・ジングルベルなど、クリスマスメドレーも歌いながら歩いていた彼が、突然振り返りそんな事を言う。
「・・・ノリが悪いなぁ。折角のクリスマスなんだからもっと盛り上がっていこうよ」
「お前のテンションが高すぎるんだよ」
僕らは今、町外れの教会から駅へと向かう途中、ぶらぶらと男二人でクリスマスイブをのんびりと過ごしていた。
彼の言動がおかしいのはいつもの事だが、今日はその格好までもがおかしい。先ほど教会で配られたサンタの風船をコートの金具に結びつけそれを後ろへ流している。そして、頭にはサンタの帽子を被っていた。できる事なら一緒には歩きたくない。
「んじゃ、帰りにケーキ屋寄って行こう。ほら」
そう言いながら、彼が見せたのは「ご注文票(お客様控え)」とか書かれた紙だ。
それには、「クリスマスケーキ・スペシャルブッシュドノエル」にチェックマークがついている。
「お前、これいつ買った?」
「先月の末くらいかな?店の前通ったら、予約受付け中って書いてあったから」
思わず深いため息が出る。何で、こいつはこんなに行き当たりばったりなんだ。
「まあ、ともかく。今夜は素敵なクリスマス。そんな夜を面白おかしくHAPPYに過ごしましょう!」
呆れる僕を他所に彼は浮かれた調子で歩き続ける。今にもスキップでも始めそうだ。
「クリスマス?今夜はまだイブだろ?」
「違うんだな、これが」
彼の言いたい事がわからず、僕は首をかしげる。24日にはイブではないのか?
「クリスマスがどこのどなたのイベントか知ってる?」
「そりゃ、キリストの・・・」
「そ。そのキリスト教の方々にとっては、今夜、日が沈んだらクリスマス当日なの」
「は?」
「だから、彼ら日の出日の入りで数えるわけよ。よく、考えてみんよ。クリスマスの夜より、イブの夜のほうが盛り上がって無い?」
「確かに」
25日はどこか終わってしまったような雰囲気が漂っている。
「そんな訳で、今夜はオレらがサンタな訳」
「で?」
話が急に変わったが、この後に続く言葉に嫌な予感がする。
「で、良い子のみんなにプレゼントを配るのさ」
「どうぞ、ご自由に」
そして、会話が振り出しに戻る。
小学校の近くを通っていると、たくさんの子どもたちが歩いている。ちょうど、終わった時刻らしい。
「今日は終業式か」
「永夜、お前それ取れ」
「それって?」
さすがに、小学生の視線は痛い。
「わぁ~、何でそんな風船つけてんだよ!兄ちゃんどこの人?」
案の定、小学生に絡まれる。
「なんだ、ガキども。サンタをしらないのか?」
「知ってるよ。それくらい。なあ。ゆう?」
元気な少年に振られ、もう一人いた大人しそう子がコクコクと首を縦に振る。
「じゃあ、お前らもちょい態度に気をつけな、じゃなきゃもらえるもんも貰えなくなるぞ」
「ははは!ばっかでーお兄ちゃん。サンタなんて信じてんの?」
「何を言うか、サンタはいるんだぞ!お前らもしかして、見たこと無い?」
「あるわけないじゃん。なあ?」
「うん・・・・」
「それは残念だ。ちなみに、オレは会ったこともあるぞ?今度アイルランドに行ってみな」
「あいるらんど?」
「あ、ぼく。それ知ってる」
永夜と小学生二人組みのサンタ討論はしばらく続く。彼らから少し離れたところで待つ僕と、おかしな3人組とを交互に見比べながら通行人が通り過ぎてゆく。
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