城から馬車に揺られて半日。陽がすっかり上りきり、傾きはじめた頃にようやく学園に到着した。
一番初めに訪れたのは理事長室。
「久しぶりだね、二人とも。元気そうでなによりだ」
「お久しぶりです。理事長こそ、お変わりないようで」
頭を下げただけの自分と違い、ニッコリと笑顔を貼り付けたシュタが、当たり障りのない言葉で挨拶を返した。
そこから、当たり障りのない世間話が始まる。
「聞いて喜べ、君たちの記録はまだ破られてないぞ。きっとこれからも破られる事がないだろうね」
「それは良かったです。学園の歴史に名を残す事ができて光栄です」
「明日で二人とも正式にこの学園を卒業できるわけだが、気分は?」
「縁が切れると思うとスッキリしますね」
変わらぬ笑顔でシュタが言い切り、同じように笑顔だった理事長から笑顔が消え去る。
自分がこの学園を仮卒業したのはおよそ3年前だ。
本来ならば、最低でも9年通う必要のあるところを6年で卒業した。通常授業で行われた実技の好成績、卒業試験の合格点を理由に理事長を説得した形になる。
シュタは遅れること半年、全ての筆記試験で過去最高点をたたき出して卒業を許された。
「次に会ったとき、私は君を王子と呼ばなければならないのか」
「嫌なら結構ですよ?理事長は僕にとっては永遠に理事長ですから。理事長から見たら僕は永遠に生徒だ」
「なるほど」
この二人はわざとやっているのだろうか?毎回思う疑問だ。
「否定しないんですね」
「ははは。そんなことは無い。君は優秀な生徒だったからね。私にとっては自慢の生徒だ。もちろん君もだ」
理事長の視線がシュタから自分へと動く。何か含みがあるような表情をされたので、目を合わせることはしなかった。
「理事長、話がかみ合ってませんよ?」
「おや、そうだったかな?おっと、やっと来たようだ」
理事長の惚けた声と重なるように、理事長室の扉がノックされた。
「入りなさい」
理事長が入室の許可を言い渡すが、数秒の間。
「失礼いたします」
扉の向こうで声が響き、ゆっくりと開く。
「理事長、お二人のお部屋の準備が整いました」
「そうか、二人とも悪いが同室だ。準備ができたようだから案内してもらうといい」
「ルームメイトって事ですか?」
シュタが感情の篭らない声で尋ねると、理事長は軽く頷く。
「シュタ、嫌なら俺は外で構わない」
シュタの言葉を聞き、何か言われる前に先手を打つ。職業柄、野宿だってそれなりにこなしている。幸い今は凍え死ぬような季節ではない。
「どうして、そうゆう展開になるのさ。何年もずっと同じ部屋にいたんだから、今更だよ。むしろ、僕は嬉しくてしょうがない」
「ならば、なお更外がいい」
「だから、なんでそうなるの?キミは僕と同室は嫌なのかい?」
「お前といると面倒な事になるからな」
「嫌なんだ」というストレートな言葉は飲み込み、ほんの少しだけ含みを入れたニュアンスで同じような言葉。
「何言ってるの、今回はその面倒なことに巻き込まれにきたんじゃないか」