「あちゃ~。派手だね、これは・・・。全部廊下に行っちゃったんだ」
渦巻いていた煙が晴れ、漸く見えたのは廊下と教室を遮る壁がなくなったすっきりした状態だった。
中は中で、多分生徒達がいたであろう部分だけを残して、衝撃で変わり果てた姿になっていた。ただ1ヶ所だけ、窓側だけがガラスが割れてはいるが、煤けているだけで無事らしい。
「ウェル先生、俺達も手伝いますよ」
中にいる教師に話しかけたつもりが、返ってきた言葉はまったく違うところから発せられた。
「あ!アキシェ先輩!!来てたんですか?」
「嘘、アキシェル先輩?うわ、ホントだ本物だ・・・・」
知ってる顔は1つしかないが、今年卒業試験を受けることができる学年の生徒だろう。
気がつけば、取り囲まれて身動きが取れない状態だった。
「すごいじゃん、アキ。人気者だね」
こんな状態になることを予測していたのか、シュタは少し離れたところで笑っていた。
ふと気づいた事がある。再会してから数時間経つが昔のように名を呼ばれたのは今が初めてだ。
久しぶりに彼に名を呼ばれ、益々学生時代に戻った気分になってしまう。
「シュタルク先輩も!どうしたんですか?お二人とも」
唯一、知っている後輩がシュタにも話し掛けるが、他は見ているだけで声をかけるまではしない。
憶測でしかないが、シュタは存在が遠すぎるのだろう。歴代トップの成績な上に王子だと言われたら話しかけづらいものがある。その点自分は特例ではあるが、そんな大層な家柄ではない。
「卒業証明書をもらいに来たんだ。悪い、通してくれるか?」
「ちょっと、風圧の影響が痛いな。修復できるかどうか・・・」
囲まれていたところを抜け、シュタのところへ向かう。
「難しいのか?」
「ん~、元がここまでボロボロだとな・・・」
残った部分を使っての修復を考えているらしい。
「いっそここも壊していいかな?」
「懲りないヤツだな。そう言って壊して、とんでもない形にしたのはどこの誰だ?」
彼の考えを変えたくて、過去の話を軽く持ち出した。
彼は一度、同じように吹き飛んだ教室を直すのにとんでもないことをやらかしている。
「いや、あれは僕なりのアレンジを加えて」
「その必要はないだろう。普通に直せ」
まずは壁を直し、それから割れた窓を直す。中は彼らに任せればいい。
ざっと頭の中で、自分達がやるべき事を考える。
「アキ、一気に直したいんだけど、補佐頼める?」
一気といいながら教室を指差す。全部を一度だけの魔法で直すつもりらしい。
分けてやろうとしていた、自分とはまるでレベルの違う話だ。
「修復の補佐を俺に頼むな」
「え~だって、見た感じこの中で一番相性が良いのキミだもの」
自分が得意なのは、治癒・防御の魔法で攻撃や修復といった魔法は得意ではない。
そもそも、魔法自体が得意ではないのだ。学生だったころは試験突破のために必死でやったが、試験から解放されてからは殆ど使っていない。
「だいたい、これくらいの規模なら補佐なんか必要ないだろう」
「仕方ないなぁ。じゃあ、離れてて」
諦めが早いのは俺のレベルを知っているからで、きっと最初から期待はしていなかったのだろう。
シュタが教室だった場所から数歩離れて、一度目を閉じた。
彼の動きを見て、俺は他の生徒達とウェル先生と共に距離をとる。
すぐに彼の周りの空気がほんの少しだが変化したのが分かる。
両手を教室に向け、床と水平に上げる。そして、シュタの周りの空気だけが誰にでも分かるぐらいに張り詰める。
後は瞬間の出来事。
強い光に包まれ、思わず目を閉じている間に目の前の景色は変化する。
「どう?元の状態の記憶が怪しいから、あまり自信ないけど・・・」
彼の言葉を聞き、教室の中を覗き込む。
「完璧じゃないのか?俺も、知らないから分からないけど」
見た感じでは普通の教室にできあがっていた。
「すっげー、おれ始めて見たよ。シュタルク先輩が魔法使うとこ!ホントに詠唱も呪文使わないんですね!」
「だから、言ったろ。先輩はすごいんだって!」
「うんうん!うわ~、だってほら鳥肌たっちゃったよ」
急に喋りだした勢いに驚いたのか、シュタが一歩下がる。
「逃げるな、シュタ。相手をしてやったらどうだ」
彼の腕を掴み、その場に止める。
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