普通、魔法を使う際は詠唱か呪文が必要だ。
詠唱は決められた長い文章を紡ぐ事によって、魔法が発動できる。
その言葉自体に力がこもっており、術者の力不足を補ってくれるものだ。
対する呪文は、短い単語で済む。こちらは、同じような意味合いの言葉であればなんでもいい。
術者にきっかけを与えてくれるのが呪文だ。
俺の場合だと、防御系魔法を使う際を後者、それ以外の術を使うには前者を必要とする。
シュタはどんな魔法を使う際でもどちらも必要としない。
「すごいです!どうやったら、そんな風になれるんですか?」
「なるも何も、これは元々持ってるものだから。どう魔法を使うかは、生まれ持った魔力に関係してくるからね」
そう、ダレもが皆魔法を使えるわけではない。生まれた時に、魔力を持っているかどうかで決まる。
ちなみにこれは遺伝性ではないので、両親は魔法が得意でも、その子どもがまったく使えないというのも普通に起こりうることだ。
だから、この学校の魔法学科は選択性だ。一応、使えるか、使えないかを見極めるための必修授業は存在するが、使えなくとも何の問題もない。
しかし、魔法に敵対できるだけの知識を叩き込まれる事になる。
「でもでも、持っててもやっぱり最後はそれを持つ人間次第だと思うんです」
この集団の唯一の女子生徒がシュタに食い下がる。
「う~ん、確かにどんなに力を持っててもそれを操るだけの知識と、使える体力がないと意味がないかもね」
「どっちにしろ、光るも腐るも本人次第って事だろ」
「そんな言い方しなくてもいいと思うけど?」
「結論を言ったまでだ」
「ま、そうだね。あ、帰ってきた」
足音もなく、スグリが駆けてくる。それを見た生徒達が教室内へと逃げてゆく。
「お二人とも、お待たせいたしました。おや、直ったのですね?理事長が報告書を出して置くようにと」
「はい。申しわけありませんでした」
「私よりも、巻き込まれた彼らに謝ってください」
「あ、っと、すまなかった二人とも」
スグリに言われ、謝る姿はなんとも滑稽だ。
「いえ、俺は別に」
「いや、でも。本当にすまなかった」
今彼の中では相当色々な考えが展開しているらしい。
見ている間に顔色がどんどん悪くなっている。
「下手をしたら、キミ達にケガをさせてかもしれないんだ。私は何てことを・・・」
「先生、落ち着いてください。俺達は何の問題もないですから」
「そうそう、こんな小規模な爆発、花火みたいなもんでしょ」
なんともいえない気まずさをシュタがフォローしてくれるので、俺はそれに迷わず乗っかってゆく。
「それに、あれくらいなら、何度同じ場面に出会っても同じように止めて見せます。バカにしないでくださいよ」
「そんな訳でいつもの事ですから。お気になさらず」
「それは、お前の周りだけの話な」
まだなんとも言えない表情のウェル先生を説得して教室に戻し、スグリの案内で目的地を目指す。
校舎を出て、しばらく歩くと寮がある。
これは生徒用に4棟、教師用に2棟そして来客用に1棟。
自分達が向かっているのは生徒用に用意された寮のうちの1つ「空の棟」だ。
全ての寮に名前が付いており、生徒用は風・光・水と続く。
教師用の寮には「太陽の棟」「月の棟」、来客用のものには「大地の棟」と付いている。
この名を付けたのは現在の理事長で、自然界の名を付けたかったというだけで特に理由はない。
本来自分達は仮だが卒業している立場にあたるので、来客用の大地の棟に泊まるのが本当だ。
しかし、明日の卒業式に来る来賓のために使われているため空きがない。そのため、今回は特例と言う形で生徒用の寮の空いている部屋に入ことになった。こうなってくると自分達の立場の中途半端さにはうんざりしてくる。
それでも、空の棟は在学中も世話になっていた場所で、馴染みがあるので抵抗はない。むしろ、戻ってこれて嬉しいと感じている自分もいたりする。
決して全寮制と決まっているわけではないが、ほとんどの生徒がこの寮生活をしていた。
もちろん、国外の生徒優先に入寮を許可し、余った部屋を近場に住む生徒に。希望者を募り、振り分けた後でも、余りの部屋数はまだまだあるらしい。
1つの寮に200人前後。学年ごとに階が決まっており、入学してから3年間は3・4人の部屋。
4年目からは2人部屋となり、試験が受けられる7年目からは希望を出せば、1人部屋となる。
そして、どうゆう訳か俺は1年目からずっとシュタと同室だった。
「なんか、懐かしいな」
寮を前にぽつりと呟くと、シュタが相槌を打ち建物を見上げる。
「たった3年なんだけどね」
シュタに習って、寮を見上げて立っていると、スグリが動く。
「お二人とも、さあどうぞ」
スグリが慣れた手つきで扉を開くと、もう何度も見た景色が飛び込んでくる、しかし、そこに異質なものが1つだけ存在した。
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