さくらの便り 20
Side Sou
気を使ってくれるのはありがたい。
ありがいが、こんなところに1人に取り残されるのは寂しい…というか怖いじゃないか。
手の中にある手紙を握り締めそうになって
慌てて全身の力を抜く。
「ふぅ~」
思わず、音になって漏れるため息。
順に思い出されるサクの記憶。
思い出した今でも彼は元気いっぱいで何か重い病気にかかってるというイメージは湧かなかった。
ただ、度々高熱をだして寝込むことがあった。
それぐらいだ。
年齢が3つ違うのは大きかったが、サクはおれの事になにかと構ってくれた。
小学校に入っても、学校の友達と遊ぶ事は少なく
おれを相手に遊んでくれるほうが多かったかもしれない。
思えば、そのあたりにも病気だという理由があったのかもしれないと考え付く。
同い年の友人と遊ぶのと3歳児のおれと遊ぶのとでは遊び方も体力もだいぶ違う。
それは、サクが引っ越してしまうまで続いた。
あんなにも遊んだのに。
こんなにもすっかり忘れていたなんて。
水色の封筒に入った手紙。
触っているだけでわかるその厚みは何を意味しているのか…。
封のされていないそれは簡単に出すことができた。
まず目についたのは桜だった。
慌てて、今まで貰ってきたハガキを確かめる。
映っている桜はまったく別のものだった。
「あの桜だ…」
しばらく眺め、時間があまりないことを思い出す。
せっかくシンが作ってくれた時間なんだ。大切に使いたい。
写真を、今まで貰ったハガキと一緒に床に並べて封筒の中身をすべて出す。
「あれ?」
手紙の間にもう一枚写真があった。
あの桜の下で元気いっぱいの笑顔の少年2人。
誰にも聞かなくともわかる。自分たちだ。
同じようにそれも床に並べた。
封筒と同じ色の便箋は簡素なもので幼い記憶ながらも彼らしいものだった。
『アオへ
元気にしているか?
いやその前に覚えてるかどうかを聞いた方がいいのかも。
というわけで、近所に住んでたお兄さん咲夢ことサクです。
アオはずっとサクと呼んでいたから本当の名前はまったく記憶になさそうだけど…。
俺が引っ越してから6年。何度も連絡しようと思ったけれど結局タイミングを掴めずに
こんな形となりました。
あの時アオは6歳だから今は12歳か、早いな。なんだか年齢差を感じるから俺の歳は書かないでおこう。
何故今になって手紙を書いたのか…』
手紙の中のサクとおれの中のサクには微妙にズレがあった。
だけど、それはきっと手紙だからある違和感であって悪い意味ではない。
それに、おれが最後に会ったサクは9歳だった。
当然のズレだ。
15歳のサクからの手紙。
よく考えてみれば、今のおれよりも年下だった。
なんかおかしな話だなと、考えると頬が緩む。
いつもおれのわがままを聞いてくれて、色んな遊びを教えてくれた。
小学校での話もたくさん聞いた。だから小学校に早く行きたくてしょうがなかった。
サクと一緒に通えるのが楽しみで楽しみでしょうがなかった。
あの年頃にしたら大きかった年の差にもかかわらず、サクはいつも一緒に遊んでくれたのだ。
『今もまだ、桜の木の下での夢を見ているか?
俺は今でも見ることがある…』
無意識に下唇を噛みしめた。
やっぱりサクは何か知ってるんだ。シンでは分からなかった何かを。
手紙を読み進めることをやめて床に寝転がる。
そのまま天井を睨みつけた。
おれはもうあの夢を見ていない。
忘れていたぐらいなのだから当たり前だ。
そのままの体勢で手紙を読み進める。
手紙は全部で3枚。
小さめのとても几帳面な字でびっしりと埋まっていた。
『…謝らないといけないことがいっぱいあるな。
何も言わずに引っ越したこと。あんな怖い目に合わせたこと
折角慕ってくれてたのに、今まで何の連絡もしなかったこと
ごめんな…』
腕が疲れたなと意識した時に
自分の頬に違和感を覚えそっと手を触れた。
目を閉じて大きく息を吸って
同じように吐き出した。
本当はサクムお兄ちゃんって呼びなさいって親に怒られてた。
でもそれは長ったらしく呼びづらかった。
だからサク兄ちゃんって呼ぼうとおもった。
だけどそれでも呼びづらくて、なにより本人がサクでいいよって言ってくれたから。
母親同士が仲良くて、一緒に遊ぶようになったサク。
両腕で顔を覆って息を止めた。
そうしないと泣いてしまうと思ったから。
そろそろシン達が帰ってくる。
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