「コウタ君だね。よろしく」
そう言って、彼は手を差し出してくる。
ニッコリと笑いながら。
ボクはゆっくりと手を差し出した。
「ほら、もうこれで知らない人じゃないだろ。
ちょっとした冒険に一緒に行こう」
腰を屈めた彼はボクの顔を覗き込みながらそう言った。
ボクは思わず1歩後ずさる。
「大丈夫、怖くはないよ」
「っ!怖くなんかない!」
ダレもいない川原に声が響いた。
最初ダレの声だか分からなかった。
自分の声だと気づいたのは、ヨアケが可笑しそうに笑っていたから。
慌てて両手で口をふさいだ。
「怖くないなら大丈夫だろう?」
ぐっと下唇を噛み締める。
「分かった。行くよ。おじさんに着いて行く。
虹の秘密ってのを見たい」
ボクは早口に一気に言い切った。
しかし、ヨアケの返事はない。
見ると、何故か片手で口元を覆っている。
「くくくっ。コウタ君おじさんはないんじゃないかな?」
「え?」
「できれば、ヨアケと呼んでくれないかい?」
「・・・?分かったよ。ヨアケさん」
うん。と満足そうに頷くとニコリと笑った。
「よし。じゃあ、まずは目を閉じて」
目を閉じると全身の感覚が良くなり
今までなんでもないように思っていたことが
そうでなくなる。
遠くに聞こえる町の音。
川を流れる水の音。
そしてふわりと全身に風を感じた。
「さあ、目を開けてごらん」
すぐ側でヨアケの声が聞こえる。
ゆっくりと瞼を上げる。
最初眩しすぎて何も見えなかった。
「どうだい?」
「あれ・・・・?」
さっきは見上げていた虹が目の前にあった。
「どうなってるの?!」
「それは企業秘密」
人差し指を立て唇にそっと当てながらヨアケは楽しそうに言う。
町の外れに流れる大きな川の側で虹を見ていたはずなのに
目を開けたらまるで別の場所にいた。
近くに見えていた一番高い建物の上だ。
見回すと、近くにある建物の煙突から煙が上がってるのが見えた。
「これから、もっと上に行くよ」
「え?」
「さあ、おいで」
ヨアケはフェンスに手をかけるとそのままひょいと飛び乗った。
そしてボクを手招きする。
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