こうなってきたら、もう後は勢いに任せるしかない。
「そうだ。誓ったんだ。」
永夜の顔よりもやや上に視線を固定し、一つ息を飲み込む。
「母さんが・・・、悲しそうな顔をしたから。僕が泣いたのを見て、凄い悲しそうな顔をしたんだ。だから、泣いちゃいけないと思った。」
視線を下げ、床を見つめる。
「それで・・・泣いてる場合じゃないって思ったんだ。母さんには、いつも笑っててほしかったんだ。父さんが、母さんをいつも悲しませてたから、僕と居るときは、いつも笑っていてほしかったんだ。」
「うん。」
「だから・・・。」
言葉が続かない。
「だから・・・母さんの前では泣かないって決めたんだ。笑うのはあまり得意じゃないから・・・」
何を言おうとしていたのかもわからない。
「せめて、泣かないでいよう・・・って」
「うん。だったらさ、もう良いんじゃないの?」
軽い口調で、何でもないように、彼は僕に救いの言葉を投げかける。
彼の言葉に僕は思わず視線を上げた。
永夜はしっかりと僕と視線を合わせるとそのまま話し出す。
「もう、終わりにしよう。何も、なかった事にしようって言ってるわけじゃないんだ。ただ、そろそろ気持ちを切り替えてもいいじゃないの?」
僕は黙って彼の顔を見続ける。
「ほら、ちょうど色々キリが良いし。」
あくまでも軽い冗談のように話す。少し、恥ずかしそうな笑みを浮かべて。
涙が溢れ、止まることなく流れてゆく。
視界が滲み、今まで見えていた彼の顔すらもわからない。しかし、なんとなく見えていたのは困ったような笑顔を浮かべた顔。あまり見ない表情だった。
何をするでもなく、永夜はずっと僕の横に立っていた。
僕は顔を上げることなく泣き続けた。泣き方なんて忘れていたと思っていたのに、涙は次から次へとあふれ出す。
一度壊れたものは直す事はできない。
今まで、壁を作って守ってきたものが、あふれ出す涙で壊れてゆく。
泣き続ける僕に対して彼はどう思っていたのか分からない。
ただ、何か子守唄のようなものを口ずさんでいたのは彼なりの優しさなのかもしれない。
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