「ああっ!俺ら大事な事忘れてるよ!」
「はあ?何?急に、なんか忘れてたっけ?」
「そうそう。ほら、こいつの誕生日!」
そう言いながら、隣に座っていたやつが僕の肩を叩く。
そういえば、そういう主旨も有ったっけか?
「あっ!そうじゃん!何で忘れてたんだろうな。」
「だよな。んじゃ、もっかい乾杯な!」
「おっしゃぁ、こいつの誕生日を祝してカンパーイ!」
こうなってくると、もう後はその場のノリだけで話が進んでいく。まともな会話など期待してはいけない。部屋の中を徘徊するやつもいるし。
「誕生日で思い出したんでけどさ、お前ら、あれどうした?」
「なあ、今日って何曜日だっけ?」
「知らねぇー。テレビつけない?テレビ。」
「あれって?」
「トイレ借りていい?」
「どうぞ、ご自由に。」
「なあ、『私有』って英語で何だっけ?」
「テレビっていえばさ、こないだのアレ見たか?」
「何の話?」
「何やってるっけ?この時間。」
「国民年金?なんか区役所から手紙来た。」
「ああ!それ、オレも来た。」
「なあ、買い出しいかねぇ?」
「ってお前、泣いてなかったっけ?」
「へ?」
「じゃあさ、『理由』は?誰か英訳できる奴いないん?」
「主役!お前んとこにも来ただろう?」
「ああ。とっくに出した。免除のやつと一緒に。」
「だから、何なのよ、それ?」
「トイレ、どこだっけ?」
「部屋出て、右側の鍵の掛かってないドア。三番目かな。」
「いつの話だよ、それ、てかさ、映画見て泣くことないよな?」
「映画?本読んでは?」
「風呂は?」
「あっ、オレこないださ、マジ泣きした。」
「貸さない。入りたきゃ帰れ。」
「家で見てると泣けない?」
「冷たいねぇ。家主くん。」
「マンガでは?」
「なあ、腹減らない?」
「そーいやさ、こないだあいつ見たぜ。」
「だれ?」
「『礼』って英語で何て言うん?」
「あいつだよ。ほら、二年とき一緒だった。」
「誰?オマエ、それ、候補だけでも四十人はいるぞ。もっと絞れ。」
「つーか、腹減った。」
「なあ、この曲、謎!」
すごい勢いで空き缶のゴミが増えていく。それに比例するように会話の内容も要領を得ないものになってゆく。会話に入るタイミングを逃し、ボーっとしていると、思い出したかのように周りが絡んでくる
PR