懐かしい夢を見た。
夢の中の僕は中学校二年生。両親はまだ生きていた。
十四歳の誕生日。
玄関で靴を履く僕に母さんが話しかけてくる。
「早く行かなきゃ遅刻するわよ?ほら。」
「平気だよ、走れば十五分も掛からないんだから。」
急がせる母に抗議しつつ、内心ではあせっていた。実際かなりやばいのだ。
いつも以上に、遅い時間だ。
「しゃべってないで、早く行ったらどうだ?」
「父さんまで?」
正直、驚くべきことだ。
そもそも、この時間に父さんが家に居ることすら珍しい。
「分かってるって、何で父さんまで来るのさ。ねえ、母さん弁当とって。」
「それくらい、自分で取れ。」
「そんなこと言ったって、もう時間無いんだ。靴履いちゃったし、父さん達が朝になってから相談持ちかけてくるのが悪いんだろう?」
「いいから早く行きなさい。いいか、寄り道しないでさっさと帰って来いよ。父さん、おまえの為に今日、仕事休んだんだからな?」
「わかってるよ。そんなに何度も言わなくても。まったく、ガキじゃあるまいし、誕生日に外食なんて・・・。」
ぶつぶつと言いながら支度する僕に、母が弁当をよこしながらつけ加える。
「お義理父様もいらっしゃるんだから、お願いね。私たちも、迎えに行くためにもう出るわ。」
「ん。じゃ、行って来ます。」
玄関を出て、エレベーターホールへと向かう。普通に歩くつもりだったが足は自然と小走りになる。ちょうど来ていたエレベータに飛び乗り、一階へのボタンを押してため息をつく。
「だから、誕生日は嫌いなんだ。」
僕は、昔から祖父が嫌いだった。
僕は一度もあの人の笑顔を見たことがない。
いつ見ても全てのことが気に食わないような顔をしている。よっぽど世の中が嫌いなのか、僕のことを嫌っているかのどちらかだろう。どちらにしろ、会うのは気が進まない。いっその事サボってしまおうか・・・。
今回の食事をしょうという話は祖父が持ち出したらしい。何を考えているのかさっぱり分からない。
今まで一度も祝ったことが無いくせに・・・。
父さんだってそうだ。今までは、朝起きると、リビングに父さんからのプレゼントと祖父からのプレゼントが並んでおいてあった。そして母さんが笑顔で「お誕生日おめでとう。今年でもう・・・歳ね。大きくなったわ。」と言うのがお決まりだった。
しかし、今年はそうじゃなかった。起きたら珍しく父さんがいて、今夜は祖父も一緒に外食をすると言い出したのだ。
僕のためとか言っていたが、そんなはずはない。きっと、祖父のためだろう。二人とも今まで何回、僕の誕生日があったと思っているんだ?
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