「よし、じゃあ二人とも決まりだな」
「えっと、・・・ゼニス王子?それで、レインは助かるんですか?罰を受けないで済むんですか?」
「ああ。もちろんだ。そうなるように、全て私が手配する。可愛い弟のためだからな」
なぜかレイブンは畏まった風に尋ね、兄さんの言葉を聞いて安堵する。
「けど、兄さん。何とかって…」
「もう、細かい事は気にするな」
「しかし、僕のことはともかく銀行強盗はどうするんですか?あっちは、見つかりませんでしたじゃ済まされないと思いますよ?」
「それも、問題ない」
「何故です?」
「真犯人が見つかったからな」
にやっ、と笑ってついでにウインク。言葉の意味が分からなければ、行動の意味も分からない。
「どうゆうことですか?」
「あの二人が、協力してくれるそうだ」
「?いったい何を言ったんです?」
「ああ、フィールのあの勢いじゃ死刑にされかねないぞ、と脅してから、話し次第じゃ助けてやるって言ったんだ。仮にもあいつら、詐欺師だしな」
「・・・・・」
あまりにもふざけた調子で言うので、冗談にしか聞こえない。しかし、冗談なのは、口調だけで、表情は真剣そのものだ。
しかし、そんな事が許されるのだろうか?
「あの?」
僕と兄さんの言い合いに、レイブンがそっと割り込んでくる。
「レインは分かるんですけど、何でオレも一緒なんですか?」
「嫌なのか?」
意地悪く尋ねるのは兄さんだ。
「え?いや、別にそうゆう訳じゃなくてですね…えっと」
「レイブン」
「はい?」
あわてて兄さんに弁解を試みていたレイブンだが、今度はエル女史に名を呼ばれる。
「実はな、お前を見ていて思い出したことがある」
「はあ」
「お前、ファミリーネームは無いと言ったな?」
「はい」
「それは、本当か?」
「え?」
「エル女史?レイブンの事、知ってるんですか?」
「ああ、私の記憶が正しければ」
「でも、オレが生まれたときにはもう…」
「レイブン。お前の祖父の名はカイシと言わないか?」
「何で、じい、祖父の名を…?」
「カイシ?ってあのカイシ殿か?」
ここで、兄さんまでも会話に加わる。有名な人なのだろうか?
「兄さんも知っている人なんですか?」
「何だ、レイン。知らないのか?カイシ殿を」
「ええ。さっぱり」
おかしいなと言いながら兄さんは首を傾げているが、僕にはまったく分からない。そして、なぜか同じように、僕の横でレイブンも首をかしげている。
「有名な人だったのか?」
「いや?普通の人だったと思うけど?」
「カイシ殿は城の中で有名な人だたんだよ」
「城内ですか…?」
「城ぉ?オレの祖父ちゃんが?」
最初は、丁寧に喋ろうとがんばっていたレイブンだったが、もうそろそろボロが出始めている。
「彼の家は、元貴族だ」
「え?」
「えぇ~っ!!」
と一番驚いているのがレイブンだった。
「おい、お前の事だろ?」
「いや、だって全然知らなかったし」
「私も会ったことがあるわけではないよ。多分、レイブンが生まれたから引退したんだな」
「私は、何度かお会いして稽古をつけてもらったぞ」
「あの、兄さん。そのカイシという人は何をやってる人だったんですか?」
「カイシ殿は剣術の達人だよ。城内では誰も勝てる人がいなかったらしい。しかし、その息子夫婦も同じように城内で仕事をしていたのでけれど、あまり評判が良くなかった…」
「もしかして、事故死というのは、祖父ちゃんの嘘ですか?」
「レイブン?」
「オレ、祖父ちゃんに一度だけ聞いたんです。父親と母親がいないのはなぜかって、そしたら、仕事の途中に事故で…って」
「ああ、ラエティス夫妻は城からの帰り道に暗殺されている。そして、カイシ殿は、すぐに爵位を放棄した。それ以来首都では見る事はなくなったよ」
大幅に省略された話だったが、レイブンはあまり気にしていないらしく、真剣には聞いていなかった。
「ふ~ん、良かったよ。それで、オレ貴族なんて柄じゃないし。祖父ちゃんと一緒で楽しかったし」
「まあ、そんな訳でカイシ殿には、お前の事を頼まれてるんだ」
「え?そうなんですか?」
「もし、会う事があればよろしく頼むってな。最後に会ったときに言われたんだ」
「だから、二人とも。遠慮なくエル女史の世話になれ」
「簡単に言ってくれるな、ゼニス。人事だと思って」
「いいえ、そんな。可愛い弟のことを人事だとは思いませんよ」
「それで、二人とも返事はどうなんだ?それ次第では、今すぐ迎えを呼ばなければならない」
どうなんだと聞かれても、すぐに返事をできるものでもない。
「心配する必要はまったくない。何しろ、今もっともこの国で権力のある二人が提案しているのだからな。それに、二人とも私のところで、学問や剣術いろいろな事を学んでもらう予定だ」
レイブンと目を合わせるが、お互いに首をかしげるだけで終わってしまう。
そして、確かに、二人が今の実力者というのは嘘ではない。しかし・・・。
「実はな、私はゼニス王子の方につこうと思ってな。これで、弟二王子よりもゼニスへの支持率が上がる。それは決定的なものになるだろうな」
勝ち誇ったような笑みを浮かべ、エル女史は宣言する。
エル女史が兄さんに付くという事は次期国王は兄さんで決定したようなものだ。
そうなれば、兄さんの行動範囲はますます広がるし、国内での力も相当なものになる。
子ども一人の存在を隠す事ぐらい簡単だろう。
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