「・・・提案というのは、何ですか?」
「ああ。エル女史!どうぞ、お入りください」
ならば、と問い掛けたが、何故か兄さんは扉の向こうにいるらしい、エル女史へと呼びかけた。
しばらくすると、エル女史が扉を開け、ゆっくりと入ってきた
「すまないな、ゼニス王子。説得は終ったのだな?」
エル女史は本当にすまなそうな顔をしながら、兄さんに向かって謝っている。
「いいえ、まだ何の説明もしてません。やはり、こうゆう事はご本人からでないと」
ニッコリといたずらな微笑みを浮かべながら、兄さんはエル女史へと場所を譲る。
対するエル女史は、兄さんにすれ違い様「やられたな」と悔しそうに小声で言いながら、僕の目の前へとやってくる。
何なんだ、この二人は・・・。
「お久しぶりね、アイリス王子。先ほどは驚かされたわ」
「お久しぶりです。エル女史」
お互いに社交的な挨拶をだけで、得にコメントせずに、お辞儀をする。
「さて、何から話したらいいかしら?」
なぜか、今の彼女は女性口調だ。これが、変化する理由を僕はまだ知らない。
彼女はそのまま、考え込んでしまう。
「実はね、私から一つ提案があるの」
考えていたはずなのに、いきなり本題から始まってしまった。どうやら何も話題が見つからなかったらしい。
「はい」
兄さんの時と同様に、大人しく頷いておく。
「先ほどからの貴方を見ていると、私としては、とても何かを感じるのよ」
「はい・・・?」
しかし、まるで意味がわからない。
「私のこうゆう勘はね、外れた事がないのよ。もちろん、それはレイブンにも感じたわ」
話しがまったく見えてこないが、彼女はそれでもいいらしい。
1人で喋り続けている。
「きっと、すごく良い物を持っている。磨けばもっと価値が上がるだろうな」
少しずつ、口調が変わりつつあるのが良く分かる。
「このままでは、もったいない」
そして、一呼吸間をあける。
「だから、二人を私の養子にしたいのよ」
「「はあ!?」」
こんな、展開になるなんて予想外だ。
レイブンと二人して、間抜けな声をだす。
「という事なんだ、どうだ?二人とも。悪い話しではないだろう?細かい事は、私とエル女史で何とかするよ。二人はただ、決断するだけだ」
「言っている意味が良く分からないんですけど?」
「そうか?」
「はい。出来ることなら、もっと、ちゃんとした説明をしてください」
「いいか、これから二人にはエル女史の下で勉強してもらう。しかし、レイン。お前の場合立場が立場だから。ただの弟子では済まされない。しかし、養子となると話が変ってくる。お前は、アイリス王子としてではなく、ただのレインとして、エル女史の養子になるんだ。」
「私の養子なら、誰も文句はいってこないだろう。その辺の気に入った子どもを拾ってきたとしか思われないだろうしな」
「でも、兄さん」
「大丈夫。私も、さっき話を聞かされたんだ。ずっと、考えていたらしい」
しかし、何とかするといっても、それは簡単な事ではない。
「それにな、たった今、この列車にはアイリス王子は乗っていなかったって、王宮に連絡したばかりなんだ」
「えっ?」
さらりと、まるで何でもない事のように言ったがそれは大変な事だ。早い話が、虚偽の報告をしたということになる。
「変わりに、面白いもの見つけたと報告しておいた」
「それって」
「ああ、あの二人の事だ。父様に泣きついたんだよ、アイツ。だから、何よりも優先させろって言われてる。ちなみに、私はそれにも逆らって、お前を探しに来たんだが、面白い事に違うものが見つかってしまったという訳だ」
とても、面白そうに語る兄さんだが、中身はけして面白くない。アイツというのは、第二王子のフィール王子の事だろう。
「そんなことを・・・」
「ああ、かなり悔しかったらしいな」
けれど、それとこれとでは話が別ではないのだろうか?
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