オレ達がエル女史の家に転がり込んでから1週間が経っていた。
つまり、あの列車を降りてから1週間が経ったということだ。
この1週間オレはずっと、レインに張り付いていた。
理由は、単純だ。
彼について、まだまだ知りたい事がいっぱいあったからだ。
知りたいというより聞きたい事と言うべきか・・・。
が・・・あの野郎、未だに説明しようとしないのだ。
オレの1週間返せよ・・・。
「レイブン!レイブン!」
部屋の扉をノックせずに、早く開けろと言わんばかりに名前を呼んでくる。
「どうぞぉ!」
と声をかければ、先ほどの声とは対照的なテンションでゆっくりと扉を開けてレインが入ってくる。
「なぁ?お前仮にも王子だろ?何でノックしないんだよ?礼儀だろ?」
「別に、理由はないよ・・・呼ぶほうが早いだろ?」
この会話も1週間続いている。
んで、1週間観察(張り付いた)結果。
オレ以外の部屋へ行ったときは、きちんと扉をノックして普通に対応している。
っと言う事で、ますます理由が分からなくなっただけだった。
しいて言えば、所々で王子様っぽい仕草がある。
食事中とか、お辞儀の仕方とか、ちょっとした動作が王子様を表している。
列車の中では気付かなかった事が盛りだくさんだ。
そんな事を考えているうちに、部屋に入ってきたレインが中を見回している。
「お前の部屋、散らかりすぎ」
ちなみに、これは彼おきまりの台詞だ。
つまり、毎回オレの部屋に入った第一声が部屋が汚いなのだ。
そして、ホントに汚いから言い返すことも出来ない。
「レイン、お前何か用事があって来たんじゃないのか?」
「あぁ。エル女史が呼んでる」
「オレを?」
「ボクたちを」
「何の用で?」
「それをこれから聞きに行くんだろ」
「まあ、確かに」
無駄のない返答をするレインに対し、オレは無駄な事ばかり聞く。
分かっちゃいるが、聞かなきゃ気が済まないのだ。
長い廊下をレインと二人並んで歩く。
エル女史の屋敷は無駄に広い。
「なぁんで、こんなに長いんだろうねぇ?」
ブラブラと歩きながらレインに問いかけると当然だろうと言わんばかりな返答が返ってくる。
「敵が攻めて来た時のためだろう。」
「えっ?何で?」
わかんないのかよ?みたいな顔でオレを見てくる。
分からないから聞いているんだ。
なんでコイツ、いつもこうなんだ?
絶対オレの事バカにしてる。
「長い廊下1本の方が、敵を向かい打ち安いだろう?」
「ああ。なるほど」
納得できる答えだな。さすがレイン。
そんな話しをしているうちにエル女史の部屋の前にたどり着く。
コンコンとレインが扉を2回叩く。
そして、一呼吸待ってから声を発する。
「レインです。レイブンを連れてきました。」
待つこと数秒。
「いいわ。入りなさい」
という声と共に扉が勝手に開く。
勝手に開くといっても、自動なわけではない。
中にいる従者が開けているのだ。
オレは初めてこの部屋に来た時、かなりビックリした。
そして、何度来ても部屋に入るタイミングが分からない。
目の前にあった扉は開いているが、そのまま入っていくのは抵抗がある。
すると、隣にいたレインは軽く頭を下げて入ってゆく。
なるほど!それだと失礼じゃないのか。
慌てて、頭を下げてレインについていく。
見ると、エル女史が笑いながら椅子に腰掛けていた。
「そんなに、硬くなるなレイブン」
「いや、やっぱオレには慣れないっす」
「慣れろよ」
最後に小さく呟いたのはレインだ。
「うるさいな、温室育ちが」
と言い返してみたが、軽く睨まれた。
そんなオレたちを無視してエル女史が話しを始める。
「実はな、2人には行ってもらいたいところがあるんだ」
男顔負けな男口調で喋るエル女史は迫力がある。
故に逆らえない。
「どこへ…ですか?」
静かに問うたのはレインだ。
声のトーンから乗り気じゃないのが良くわかる。
「学校だ」
レインの質問に対しエル女史は極々簡単に、そして当然のようにそう言い放った。
「「はぁ?」」
レインと異口同音で間抜けな声をだす。
しかし、やはりエル女史は気にしない。
「手続きはもう済んでいる。さっさと行け」
というわけで反抗する間もなく、準備をさせられ今現在、オレたちは馬車の中にいた。
オレの前では、出発時から変わらぬ体勢で乗っている不機嫌なレインがいる。
どうやら、エル女史に言われた事が気に食わないらしいが、オレとしてはいい迷惑だ。
おかげで、ものすごく乗り心地が悪い。
仕方がないので、先ほどの事を振り返る。
「なんで、今更・・・」
「理由はたくさんあるわよ」
レインの呟きに対してエル女史は急に女性口調に変わる。
「まずは、ここにいるよりは有意義な時間が過ごせるから」
「そんな事ないです。僕にとってはここが・・・」
「そして、レイン、貴方には団体生活を学んでもらうわ」
レインの言葉を再びさえぎって、笑顔でそんな事を言うエル女史。
それを聞いたレインが「うっ」っと小さな声でうめく。
「レイブンには、一般教養を身につけてもらうわ」
「うっわぁ!きついっすよ。エル女史。ってレイン?どこ行くんだ?レイン?」
ぺこりと頭を下げて、綺麗に回れ右をして部屋から出ようとしている。
「部屋へ帰って準備をする。お前も急げレイブン。もう迎えの馬車が来てるぞ」
「おっ、よく分かっているなレイン。外を見たのか?」
「ええ。レイブンを呼びに行く時に。では、失礼します」
で、そのあと大急ぎで身の周りの品(といっても元々対したものは持っていないので、かなり軽い)を持って馬車に乗り込んだ。
そして、今にいたる。
「あ、着いたぞ」
窓の外を眺めていたレインが呟いた。
外を見ると、主都の城顔負けの大きな建物がどーんと構えていた。
気が付いたら始まった、学園生活を楽しみながらも苦労して、何倍も成長して戻る事になるのは、三年後の話だ。
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