「たまには、こうゆう情緒ある列車もいいわね」
「それは良かったです。申し訳ありませんでした。私のミスでチケットを手配できませんで・・・」
「いいのよ。ケイ。こうゆうのも楽しいじゃない。旅って感じで」
「ありがとうございます」
あからさまな、上下関係を示しながら歩いてくるのは、女性二人だ。
それを見て、あ、と声を漏らしたのはオネストだ。
しばらく、迷っているなと思ったら、立ち上がり、通路に移ったかと思うと深々と頭を下げる。
「お久しぶりです!エル女史!」
急な大声に、その場にいた全員が驚く。
エル女史だって?
「おい、レイン。誰だよ、エル女史って」
レイブンが何故か焦った調子で耳打ちしてくる。
「何でも僕に聞くな。彼女は、首都でも有名な学者だ。ついでに画家でもあり剣術師でもある」
手早く彼女について説明する。首都に住む人間なら誰でも知っている事だ。
でも、何でこんなところに彼女がいるんだ?
「その、お偉い方が、何でこんなオンボロ列車に乗ってるんだよ」
「だから、僕に聞くな」
こっちが聞きたいくらいだ。
なぜ、彼女がこんなところにいる?
「そんなに、深く頭を下げていたら、顔が見えなくて誰だかわからないわ」
頭を下げるオネストに、エル女史と呼ばれた女性が優しく声をかける。
「あ、えっと、フロー男爵家のオネストです。エル女史」
丁寧に答えたオネストを見つめ、エル女史は短く切り揃えられた茶の髪を手で触れながら、しばし考える仕草をみせる。
「あ~、分かったわ。でも、最後に会った時はもっと小さかった気が」
「それは、弟だと思います。先月会ったばかりですから」
彼女の記憶力はあまり良くないらしい。それとも、単に興味のない事は覚えないだけなのかもしれない。
「そういえば、そうね。けれど、オネスト?なぜ貴方がこんなところに?」
僕らのことなど、まるで眼中にないようで、二人の会話は進んで行く。
聞かれたくないことを聞かれ、しどろもどろになっているレイブンをエル女史は楽しそうに眺めている。
立ったままでいいのだろうか?
彼らを見ていて、そんな事を疑問に思う。けれど、列車はまだ出発する気配がない、揺れる事はないから大丈夫だろう。
しかし、他にも何人かいたはずだが、彼等はどこへ行ってしまったのだろうか?
「エル女史。お二人でいらしたのですか?」
同じように疑問に思ったのかオネスト尋ねる。
「いえ。他にもいるわ。騒がしいから、他の車両に乗ってもらったのよ」
ああ、なるほど。
「オレ、無理」
二人の会話を盗み聞きしていると、同じように聞いていたレイブンが呟いた。
「何が?」
「こんな会話、オレには出来ない」
「はぁ?」
「だって、さっきまでのオネストの話し方聞いてただろ。アレがどうしたら、こんな会話ができるんだ!」
あくまでも、小声で文句を言うレイブン。
「貴族ってのは、あんなもんだぞ」
「納得できない!」
せかっく、ここまで、小声で話していたのに結局、最後は叫んでいる。
冗談じゃない。
「悪い。レイブン、僕はちょっと出かける」
「え!?ちょ、何?急にどこ行くの?レイン!」
勢い良く窓を開き、そのまま枠に足をかけ外へ飛び出る。
「失礼!全員、動くな!」
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