「えっと、それで?あなたは?」
ここで漸く、第一王子・ゼニスがアシエに名を尋ねる。
先ほど、エル女史へとやったのとまったく同じことを繰り返し、自己紹介を済ます。
「では、貴方の仕事はここで終わりです。アシエ。ご苦労様でした。」
仮面のような笑顔を貼り付け、ゼニス王子はそう言い放つ。
何を言われたのか、理解できていないアシエは固まったままだ。
「どういう、意味です?」
時間をかけて出てきた言葉はそれだけだった。
「では…、ちょっとあちらへ…。エル女史、貴女もよろしいですか?」
「ええ。もちろん。喜んで行くわ、ゼニス王子」
「すみません。エル女史、それと…できれば、少しだけ待っていただけますか?」
「ええ。分かったわ」
エル女史は綺麗に微笑んでからオネストと、ついでにレイブンに声をかけ、三人一緒に隣の車両へ移っていった。
当然だが、僕とゼニス王子の二人だけが残された。
「やあ、アイリス。久しぶり…かな?」
そして、横一列の状態で会話をする。
「兄さん、いつからリッケイの仕事に就いていたんですか?」
「ああ、昨日からだよ」
「良く、国王陛下の許可が出ましたね」
「説得は私の特技だよ」
「何んでまた?」
「それは、レイン。お前を探すためさ」
彼は、王国府内の仕事を転々とこなしている。
経済部にいることもあれば、司法部にいることもある。
気分とタイミングが合えば異動するらしいが、何を考えているのかはわからない。
そして、恐ろしい事に全ての部署で最終的には歓迎されている。
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