エル女史に連れてこられてから、それほど経たないうちに列車は動き出した。
瞬間、嫌な予感が頭をよぎる。
レインとゼニス王子を残して、走り出してしまったのかと思ったが。
すぐにそれは否定された。
救急箱を持ったゼニス王子が、三両目の方から現れたからだ。
彼は、レインの手当てをして来ると言い置いて、一両目へと行ってしまった。
なぜだか知らないが、他の乗客たちはエル女史によって他の車両へと移されている。彼らは最初こそ文句を言っていたが、相手が誰だか気づくと急に大人しく従い始めていた。
それほど、このエル女史という人は凄いらしい。
「すみません。お待たせしました」
そして、ゼニス王子が十分も経たないうちに戻ってきた。
頭の後ろに手を当てて、ほんの少し頭を下げたゼニス王子は、行きに持っていたはずの救急箱を手にしていなかった。どこに置いてきたんだろうか?
彼は、金髪ではあったが、ブルーではなく茶の瞳を持っていた。確か、国王陛下もあ同じような容姿だったように思う。あまり、確かではないが…。
「いや、構わないよ、ゼニス王子。それより、彼らを帰してしまって良かったのかい?」
「…ああ。問題ありませんよ。命令はは絶対守る連中だ。それに、彼らは帰りも空から。そして私は陸から」
少しの間考えてから、思い当たる連中が見つかったらしく、一旦空へと向けた指を最後に前方方向を指し示しながら、ゼニス王子は答える。
「なるほど」
楽しそうに微笑みながら、エル女史は一人納得する。
「いったい何がどうなってるんですか?エル女史。俺って、このままここにいて良いんですか?」
「オネストか…」
まるで、今思い出したと言わんばかりの呟きは、オレにしか聞こえていないようだった。
やはり、このエル女史という人間は相当変わっている。
「どうする?ゼニス」
「そうだな。貴女はどう思います?」
「私に聞くのか?」
「ええ。参考までに」
「いいんじゃないか?このまま、ここにいれば」
「では、その通りに致しましょう」
「その前に、ゼニス」
「何でしょう?」
「そのふざけた口調を今すぐ直せ」
本気で怒っているらしく、その声はかなり低い。
何の関係もないはずなのに、つい一歩下がってまった。
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