ギシッ、ギシ、ギシィ
と歩くたびに床が鳴る。
入ってきた時は、回りに気を取られていて気づかなかったが、足元は古い板張りだった事に気付いた玲は、足音を立てないようにゆっくり歩く。
ところが、上手くいかないらしくどうしても音が鳴ってしまう。
ギシィ、ギシィと音を立てて瑞希へと近づく。
ゆっくりと歩くことによって、余計に音が鳴ってしまうという事には本人は気付いていない。
「これ、良くない?」
と近づいてきた玲に瑞希が手に取っていたもの見せる。
「あっ、かわいい。綺麗だね、文字盤のとこ」
「でしょ?これにしようかな」
瑞希が手にとっていたのは腕時計だ。
「おしゃれだし、いいんじゃない。私だったら買っちゃう!」
腕時計は、ベルトではなくブレスレットのように銀の鎖で紺の文字盤には赤や黄色、青、緑といった細かいガラスが埋め込まれて、まるで星空のようになっている。
針は金色で、何故か秒針だけが銀色をしている。
「うん。じゃあ、決めた」
「で?肝心のお値段は?」
「あっ、忘れてた。いくらだろ?」
あれ?と言いながら瑞希は時計をひっくり返してみたり、下から覗きこんでみたりしている。
しばらくすると、今度は時計が置いてあった場所へ視線を向ける。
首を傾げながらも、周りの品物ーピアスや腕時計ネックレス、宝石箱ーをどけている。
「何してるの?瑞希」
「う~ん?値札がない」
「じゃあ、店員さんに聞いてみれば?」
そう言いながら、玲は店の奥を指さす。
ところが、店の奥は暗闇に閉ざされていて、何があるのかまるでわからない。
「行こう」
玲に促されて、瑞希はようやく歩き始める。
ギシィ、ギシィと2人分の足音が響く。
暗闇に慣れ始めた2人はあるものを発見した。
「あっ、ねぇあの人、店員じゃない?」
とささやき声で、瑞希に話し掛ける玲が示しているのは、ロキングチェアーに座っているお爺さんだった。
小太りで、顎のところに白くて長いひげを生やし、小さな眼鏡をかけているお爺さんはまるで、絵本から出てきたサンタクロースにようだ。
「あの、ここのお店の方ですか?」
瑞希が、やや緊張気味に声をかける。
「・・・・・・」
無反応だ。
「あのう・・・?」
「・・・・・・・」
と今度は玲が、声をかけるがやはり反応がない。
「あれ?」
「どうしたの瑞希」
「あき、これ、人じゃない。人形だ。」
「うっそぉ」
少し声が裏返った玲が、人形に手を触れようと腕を伸ばす。
触れるか触れないかところで、ピタリと玲の手が止まる。
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