放課後を告げるチャイムと同時に昇降口から次々と生徒たちが出てくる。
この学校の最寄の駅は2つある。
しかし、どちらの駅も学校の建つ丘を下りなければたどり着かない。
それが、どうゆうことかと言うと、しばらくの間は一気に出てきた生徒たちのほぼ全員が同じ道を歩くということだ。
蟻の行列の様に続く生徒達は、毎日が集団下校である。
もちろん、朝もこれと同じような状態になる。
多少はバラけるが、生徒数が半端ではないため多少バラけたぐらいでは意味が無かった。
瑞希、由月、玲の3人はこの蟻の行列を避けるためにわざと教室に残っていた。
「雑貨屋さんって?どんな噂なの?」
「う~ん、実を言うと私も良く知らないんだ」
「良くそれで行く気になったね玲」
「やっぱ玲ちゃんの噂は当てになりそうもないか」
「ん~、チラッと聞いた限りでは面白そうだなって?」
不自然に語尾が疑問系になる理由は、二人の手厳しい反応のためだろう。
「もちろん、古机の何処に有るか知ってるんだよね?」
「うん!それはもちろん!」
先ほどとは対照的に元気良く答える玲に、残りの2人反応は良くない。
「玲が自信満々な時ほど、やばい時はないんだよね・・・」
「瑞希、がんばってね!私はそろそろ行かなきゃ」
「ちょっと、2人ともどうゆう意味さ!絶対迷わないから安心してよ、瑞希」
「ホントに?」
「うん。だって駅から1本道だもん」
隣駅までは、電車で10分とかからないところにある。
由月とは電車の中で別れた二人は古机と書かれた看板の下でどの道を行くかを検討していた。
「どうして、どの道を行くのか、まで調べなかったの?」
「え~、行けば分かると思ってたから・・・」
玲のセリフは最後のほうではフェイドアウトしてしまう。
どうやら本当に分かると思っていたらしい。
彼女達がいるのは駅の改札を出たところだ。
目の前に広がる、少し寂しげな駅前ロータリーの奥には、全部で3本道がある。
向かってまん前に、大き目の道路が1本。
すぐ左手に住宅地に伸びる道が1本。
その逆方向に、どこに向かっているのか想像もつかない細い道が1本。
そして、彼女達の真後ろにもう1本。
先の見えないという意味では前者の道と同じだが角度がまったく違う道が存在していた。
「どうします?瑞希?どのみちがいい?」
開き直ったらしい玲が、楽しそうに瑞希に尋ねる。
「一番行きたくないのはコッチだけど・・・」
そう言いながら、背後にある坂道を見やる。
「可能性が高いのもコッチ」
「だよね!」
と瑞希のセリフを玲が締めくくる。
「間違ってる!」
「そう思うなら戻らない?あきさん」
強い口調で否定する玲に対して、やる気なさそうに答える瑞希。
2人は今、坂を登っている真っ最中だ。
「ダメ!こうなったら絶対登りきる!」
「もし無かったらどうすんのさぁ」
「ダメ!絶対行く!ほら、瑞希頑張って!」
「がんばって、はこっちのセリフだよ・・・」
という最後の瑞希の言葉は玲に届かない。
なぜかと言うと、先頭を歩いているのが瑞希、その2m程後ろを玲が息を切らせながら歩いている。
この会話を最後に2人の間に沈黙が訪れる。
喋る事で余計な体力を使っているという事に気付いたらしい。
「あっ!ねえ玲!もしかしてあれじゃない?」
しばらく、二人して黙々と坂を上っていると、前を歩く瑞希が後ろの玲に声をかける。
「ど、こ・・・?」
「ちょっと、大丈夫?玲」
「うん。なんとか・・・ちょっと休憩」
「ほら、この、目の前のそうじゃない?」
「へ?」
「看板書いて有るじゃん」
「嘘・・・。予想外」
「何を予想してたの?」
「予想はもっと、古めかしい・・・ボッロい店」
玲はこれでもかというぐらいに、ボッロいを強調した。
「花、咲きすぎだし・・・。」
「えっ、そこに文句があるの?」
二人が目の前にある建物は、レンガ作りで高さ的には2階建て。
しかし、周りにある2階建てよりも、頭1つ分飛び出している。
和風と洋風の違いだと言われればそれまでだが、もう1階分部屋があってもおかしくはない。もしあったとしたら、天井が相当低くなるだろうが・・・。
そして、瑞希が指摘した看板は建物の真中よりも下の位置にについている。
看板には誇大表示とも言える文句が書いてあった。
「え~っと、あなたが探しているモノきっと見つかります?」
それを、瑞希が声にだして読み上げる。
「何か、結婚相手が見つかりそうな店だね」
「え?何それ?」
玲のおかしな感想に瑞希が心底不思議そうな声を出した。
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