入り口中央で深々と頭を下げている人物がいる。
服装を見ると、学生らしい。
「お帰りなさいませ、シュタルク先輩、アキシェル先輩」
頭を下げたまま、真面目そうな声でそんな事を言う。
そして、顔を上げイタズラっぽく笑うその姿には見覚えがあった
「・・・レイス!レイスじゃないか!何やってるんだお前は」
「レイス?ホントだ、レイスだ!」
叫ぶだけの自分と違い、シュタはレイスに飛びつきに行く。
そんなシュタを上手く交わしながら、レイスが俺に近づいてきた。
「ああ、久しぶり二人とも。来るのをずっと待ってたんだ」
「それ、もしかしてお前が寮長?」
すぐに目につくものがあった。彼の胸を指差し問いかける。
「あれ?気づいた?そう。アキシェからシュタに渡ってここに来た」
自信の胸に付いた徽章を示し、にこやかに笑った。
「へぇ~、まさかレイスが引き継ぐとは思わなかったよ」
「って、引継ぎしてないのか?」
シュタの言葉に驚き、レイスを見ると彼は大きく頷く。
寮長の選出方法は二通り存在し、1つは、6年目になった生徒の中から成績優秀で、周りから認められた人間が選ばれる。そしてもう1つは、現寮長が後継を直接指名する方法。
自分の時は先輩方を差し置いて、寮内満場一致で決まってしまったが、今考えれば先輩方に面倒な事を押し付けられたにすぎない。
そしてそれを半年で放り投げ、シュタに全てを任せて学校を出た。
予想していなかったのはその半年後にシュタが同じように学校を出た事だった。
「聞いてよ、アキシェ。シュタルクは夜逃げ同然だったんだ」
「は?」
「キミがいなくなって、つまらなかったってのもあると思うけど、半年でそれまで平均だった成績を全部底上げして理事長脅しにいったんだ。んで、許可が出たらすぐに・・・・」
「シュタ、お前なんて無茶な事やってるんだ」
「無茶はキミも一緒だろ?大体、6年の生徒が試験受ける時点でも異例だったんだから」
試験を受けられるのは、入学して7年目からと決められている。
通常だと1年目から3年目までは基本的な事、つまり基礎を学び、4年目からは応用と選択別教科が発生する。
それを3年間こなし、基準に満たしたものから卒業試験を受ける権利を得られる。つまり、最低でも6年の勉強期間が必要という事だ。しかし、その基準は結構高く、7年ですぐに卒業試験を受けられた者はほとんどいない、復習しながら試験を受け、卒業を目指すことになっている。
「レイス、キミはまだなの?」
「そうだ、レイスほどの成績ならとっくじゃないのか?」
しかし、寮長を務めている時点で、彼が卒業試験を全てパスしていない事が分かる。
「うん。あと1教科なんだ」
「一応聞くが、それ以外受かったのはいつだ?」
「去年1年かけて一通り」
1人が試験を受ける教科は最低でも10教科。それプラス選択授業の教科となる。
自分が知っている限り、彼はそれほどレベルの低い人間ではない。
「キミ、好きでやってるでしょ?」
同じ事を考えていたらしいシュタがレイスに詰め寄る。
「あれ、バレた?」
「バレた?じゃないよ。何でそんなことやってんだよ」
「だって、ほら、ここ卒業しても行くとこないから、時間かけてゆっくり説得」
「行くとこないんじゃくて、どこにも行く気ないんだろう?」
「そうそう、レイスだったら、いろんなとこからお呼びがかかるだろうに」
「で、結果は?」
「成功。来期から教師補助に入れてくれるって」
満面の笑みで彼は言う。
全てが思い通りに進んだと言う事なのだろう。
「では、私はここで失礼いたしますね」
発言するタイミングをみていたたらしく、ここぞとばかりにスグリが言葉を発した。
「あ、スグリさん。ありがとうございました」
シュタと一緒に軽く頭を下げて礼を言う。
「折角ですから、楽しく過ごしてくださいね」
笑顔で去ってゆく彼を見送ると、本格的に会話する体勢に入る。
「あれ?じゃあお前明日でないのか?」
1教科パスしていないなら、卒業式には出れない。
待っていたという言葉を聞いててっきり彼も出るものだとばかり思っていたのだ。
「いや、出るよ。お前らと一緒の特例ってやつ」
「全教科終わってないのに?」
不思議そうに尋ねるシュタに合わせて俺も頷く。
「あ~、いい加減卒業して欲しいみたい。本音としては。残った教科も世界史のレポートだから。受かるの確実だろうって」
「はは、追い出されるわけだ」
「まね、正確には寮を追い出されるんだけど」
「確かにいつまでも寮長が一緒じゃ、この後きついもんな」
3年近く寮長が変わらないのは珍しいことだ、大抵は1年、長くとも2年で変わってゆく。
3年も続けた人間の後に入る人間が上手くまわせなくなってしまう。
「寮長候補、もう見つけたの?」
「一応ね~」
戻る?|進む?PR