自然な動作で玄関ホールを過ぎ階段を上がり始めるレイス。ふとここで疑問に思うことがある。
「で、レイス。僕らの部屋はどこになるの?」
「もちろん、最上階」
疑問に思ったことをシュタが聞いてくれ、解決はしたが、このまま最上階まで行くと考えるとあまりいい思いはしない。最上階は5階。見晴らしはいいが上までに行くのにかなりの体力が必要だ。
「食事は、時間ずらしてもらえるように料理長に頼んどいた」
「助かる」
レイスの言葉に短く答えたのはシュタだ。
「いいえ。お前ら二人とも人気ものだからね。迂闊に動いて騒ぎになるのは避けたかったから」
「さすが」
と今度は俺が賞賛の一言を発する。
レイスの言った理由は冗談のようなもので、時間をずらした本当の理由はシュタだけにある。
単純に彼が王子だからだ。
いくら学園内といえども何もないとは限らない。在学中はそんな特別あつかいはありえなかったが今は状況が違うのだ。
「いまはダレがいるんだ?」
5階は特別な階となっており、だれでも行けるわけではない。
成績優秀者と寮長、その他特例が認められた人間だけが出入りできる。
「ん~、おれだけ」
「で、これ。二人に」
鍵穴に差さっていたそれを抜くと、俺の目の前にそれをぶら下げてくる。
「鍵、ないと不便でしょ?」
「ああ、でも」
「大丈夫、おれのはこっちにあるから」
にっこりと笑いもう1つの鍵を取り出してみせる。
「二人で一個、で申し訳ないけど。あ、ちなみにこっちが部屋の鍵」
ついでと言わんばかりに、もう1つ最初の鍵よりは小さな鍵を手渡される。
「ん、どうも。充分だよ一個あれば、嫌でも二人で行動するだろうし」
「何、アキその言い方は」
「一応、お前雇い主。俺、雇われてる人間」
忘れそうになるが、今現在の立場はこうだ。
「何、アキシェ仕事中なの?」
「まあ、一応」
詳しい仕事内容はまだ聞かされていないが、彼の命を何よりも優先しなければならないのは確かだ。
この学園内で何かがあるとは考えにくいが、もしもということもある。
したがって彼と行動を共にする事は当然の事。
それが、今回の依頼内容だ。
「ちょっとアキ。依頼内容覚えてないの?」
「お前を守るんだろう?」
「そんなこと言った覚えはないけど?」
依頼書に書かれていたのは、「行動を共にし、事を解決していただきたく思う」という1文と
待ち合わせの日付・場所・時刻・依頼料金と報酬の金額のみ。
依頼人の名もなければ、詳しい依頼内容も書かれていなかった。しかし、待ち合わせ場所として指定された場所には覚えがあった。
そこは、王家が良く使う城外の話し合いの場だ。
2階が、酒場となっており侵入者がいても良く分かる。なぜならば建物の構造上2階にしかで入り口が存在しない。そんな訳で、入るのも出るのも、2階にいる人間に姿を見られなければいけない。
そして、当日はその2階に会議に参加する貴族達の護衛が待機していた。
「一緒に行動しろって事は護れって事じゃないのか?」
バカにしたようなシュタの言葉に、無意識にトゲのある言い方になってしまう。
「キミに護ってもらわなくとも、自分の身は自分で護る」
それに対するシュタの言葉も似たようなもので、俺は言い返そうと腹に力を込めた。
「どっちでもいいよ」
「え?」
「は?」
しかし、瞬間早くレイスが冷たく言い放つ。
思わず漏れた俺とシュタのマヌケな声。
「どっちでもいいって、そんなのは。護る護らないじゃなくて、用は、シュタルクの希望通り動くのがアキシェの今回の仕事でしょ?」
「そうゆこと」
シュタが嬉しそうにレイスの言葉を肯定する。
希望通り行動するという言葉を聞き、今後の彼の言動が気になって仕方がない。
もしかして、いやもしかしなくてもとても面倒な依頼を請け負ってしまったのかもしれないと、今更気がついた。
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