「じゃ、夕飯の時間には迎えに行くよ。それまでゆっくり休んでな」
「え?レイス、一緒にお茶しないの?」
自分の部屋のドアに手をかけ手を振るレイスに、シュタが驚いたように話し掛ける。
「シュタルク。悪いけど、おれこう見えても忙しいの。アキシェなら分かるでしょ?寮長って意外にやることあるんだよ」
「良く分かる。ついでにお前のことだから卒代だろ?」
「そうなんだよ~。まだ挨拶考えてないんだよ。この際だからぶっつけ本番でもいいか、とも思ってるんだけど・・・」
「いや、いくらなんでもそれは許されないだろ?」
「だから、おれは忙しいの。シュタルクが卒代やってくれるなら話は別だけど?」
「悪いけど僕はそんな面倒なことゴメンだよ?」
「だろうね。そんな訳で、また後で」
「ああ、じゃ」
「ありがとね、レイス」
レイスに貰った鍵を差し、ドアを開ける。
ひらひらと手を振って部屋の中へ消えた彼を見送ってから、自分達の部屋に意識を向けた。
部屋の匂いを感じ取り、なんとなく懐かしさを感じるのは気のせいか。
「あ、そうだ。言い忘れてた」
部屋の中に消えたはずのレイスの声が聞こえ、視線をそちらにやった。
「無断外出禁止ね。もちろん部屋から出る事も。これ、寮長命令。じゃあ」
反論どころか質問する間もなく彼は消えていった。
「外出はともかく、寮内の行動も制限されるのか?」
「らしいね」
「何で」
「さあね」
「・・・・・・・・」
彼が何か知っているのは明白だ。ついでに、レイスも何か隠している。
入り口で動かない俺を置いてシュタが部屋の奥へと進んでいった。
仕方なく、自分も部屋の奥へ。
「シュタ」
短く名を呼び彼を振り向かせる。
「・・・・っツ」
音のない空間に、彼の息を呑む音だけが響く。
何の予備動作もなしに、己の剣を引き抜き、シュタの首に突きつけた。
「アキ?」
声音どころか表情すら変えずにシュタが名を呼んでくる。
「何だ?」
同じように平然と返事をしてみる。
シュタが眉間にシワを寄せ、それを見て思わず片頬が緩んだ。
1つ、目を閉じ表情を引き締め、剣を握る片腕に力を込める。
「説明・・・してもらおうか?」
「何・・・」
「何を?とは言わせない」
彼の言葉を遮り、一歩踏み込み同時に剣を滑らせると、空いていた片腕を添える。今までの先端を突きつけていた状態から刃全体を彼の首に当てることになる。
「「・・・・・・・・」」
互いに沈黙。
彼の視線を捕まえて逃がさないように、目に力をこめる。
睨み合って数秒。
「アキ」
彼が名を呼んだのと、彼の手が剣の刃を握りこんだのはどっちが先だったろうか?
「・・・っ!!」
己の一部だった剣が急に変化を起こす。いつもは重さを感じさせない剣が、いまや鉛のような重さだ。
「ッつ!術式破壊!及び防御!」
シュタが術を使ったのを瞬時に悟り、彼からすぐさま離れた。彼の魔法を打ち消すために、己が使える限りの術を始動させ、大切な剣を護るために力をそれに注ぐ。
衝撃が来る、感じ取りはしたが、間に合わない。
術はたった今剣に対して使ってしまったので、己に対しては仕えない。
自分のレベルは所詮それぐらいだ。
そんなに同時にいくつもの術を使えない。
ふと閃き剣を突き出し、彼が放つ術の吸収を試みる。
たった今、剣に掛けた魔法でどうにかなると判断したからだ。
「甘いよ。アキ」
「ざけんな」
言い終わった瞬間に体中に圧迫感を感じたが、ここで負けるわけにはいかない。
これは、彼の力の強さを表す圧迫感なので、術とは関係ない。
唇を噛み締め、剣を力いっぱい握りこむ。
来い!!
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