気の向くままに徒然と・・・
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プロフィール
HN:
遼 莉杏
性別:
非公開
自己紹介:
自称、「言の葉」使いの物書き。

遼 莉杏と書いてハルカ リアンです。


最近のマイブームは
『薬屋探偵妖綺談』シリーズ
羞恥心

創作仲間・相互リンクしてくれる方を常に募集中。
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壱。

蝉の声が五月蠅いくらいに響き渡り体感温度を上昇させる。
あたりには日陰なんてものは存在しない。
ついでに言えば、眼下に見える町には心なしか陽炎まで見えている。
「暑い」
短く呟いた自分の言葉が耳に届くと、また1℃体温が上昇した気がするのは気のせいだとしても、このうだるような暑さは決して気のせいではない。
ここへやってきた時に配られた、冷たいペットボトルのお茶は今では中途半端な温度になってしまい口に含む気さえおきない。
天気予報では、今年一番の暑さになるだろうと言っていた。
見なければ良かったそんなもの。
そんな風に思ってももう遅い。
余計な情報が、気分の悪さに拍車をかける。
時折吹いてくる風が、僕の意識を保たせる唯一の救いだ。
ここへは好きでやって来たわけではない。僕の立てた予定では、今頃は冷房をかけなくても涼しい部屋で読みかけの本を読んでるはずだった。
「知らなかったよ」
「何が?」
わずかに聞こえてくる音に黙って耳を澄ませている人物に声をかける。
「お前の趣味が寺めぐりだったなんて」
「ん~、気づいたら?」
そんな言葉に、僕は思わず眉根を寄せた。
ここ数日、僕は彼によって色んな寺につき合わされている。
「何が?」
言葉は同じでも、僕が口にするとだいぶニュアンスが異なる。
「それに、寺っていうよりは墓めぐりだな」
遠くの空に見える積乱雲に視線を定めたままの永夜が静かに、そしてどこか淋しそうにそんな事を言う。
「気づくとさ、行きたいと思う場所が増えてたんだ」
それは、今までに彼が出会って別れた人間を指すということにすぐに気がついた。
暑さを誤魔化せればと始めた会話は、あまりいい方向には進まない。
周りでは、年配の方々がさきほどの永夜と同じように耳を澄ませている。
そんな、おじいちゃんやおばあちゃんに連れられてきたのか、小さな子どもたちが少し離れたところで遊んでいた。
ダレも僕らの会話に耳を傾ける人間はいないだろう。


「最初は、ただ見に行くだけだった。でも時が経つにつれて、遺族の関心は低くなる。荒れ放題の墓にするくらいなら、オレが面倒見てやろうと思っただけ」
「物好きだな」
自分なら絶対にそんな事はできない。
現に、両親たちの墓には1度も訪れた事はない。何も入ってないにしもバチあたりな行為だ。
「ん~、だってさ、なんか可哀想な気がして・・・。忘れられたわけじゃないんだろうけど、構ってもらえなくなるってのは寂しい事だろ?だから、年に1回オレはこうして様子を見にくる」
そうえば、去年の今頃も彼は毎日どこかへ出かけていた。
帰ってきた彼からは懐かしい感じの匂いがすると思っていたら、それは線香の匂いだったのだろう。
「花が飾ってあったらまわれ右、何も無かったら、オレが備えとく。それだけだよ」
「でも、どうやって調べたんだ?」
「何を~?」
「墓、どこにいるなんて分からないだろ?住んでた場所の近所とは限らないし」
暑さで回らない頭で考える。
「あ~、それは、なんとなく分かるんだよ。親しくしてたやつは特に。墓がじゃなくて、死期がね。だから、こっそり着いてゆく」
言葉の少ない説明は頭の中で整理する必要がある。
彼はこっそり葬式に参加して、納骨にもついて行ってるという事なのだろう。
共に過ごしはじめて何年もたつが、彼の行動には謎が多い。
そもそも、自分の事については一切語ろうとしない。
彼が今までどうやって生きてきたかも知らないし、今何を思って生きているのかも良く分からない。
時々、日本での話はするのだが向こうにいた時、特に今の体になる前の話しは聞いた事がない。
今まで低い低音だけが聞こえていたはずが、木魚と鐘の音が断続的に聞こえてくる。
「お、クライマックスだな」
彼の突然な言葉に僕は思わず、境内を振り返る。
「クライマックスって・・・」
お経にヤマ場は存在するのだろうか?
ここついてから、彼が説明してくれた事がある。
今日は、御施餓鬼(おせがき)というらしい。
簡単に言うと、お経を聴いて、お墓に差すための新しい塔婆をもらい、墓にお供えをするための集まりだ。

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