「最初は、ただ見に行くだけだった。でも時が経つにつれて、遺族の関心は低くなる。荒れ放題の墓にするくらいなら、オレが面倒見てやろうと思っただけ」
「物好きだな」
自分なら絶対にそんな事はできない。
現に、両親たちの墓には1度も訪れた事はない。何も入ってないにしもバチあたりな行為だ。
「ん~、だってさ、なんか可哀想な気がして・・・。忘れられたわけじゃないんだろうけど、構ってもらえなくなるってのは寂しい事だろ?だから、年に1回オレはこうして様子を見にくる」
そうえば、去年の今頃も彼は毎日どこかへ出かけていた。
帰ってきた彼からは懐かしい感じの匂いがすると思っていたら、それは線香の匂いだったのだろう。
「花が飾ってあったらまわれ右、何も無かったら、オレが備えとく。それだけだよ」
「でも、どうやって調べたんだ?」
「何を~?」
「墓、どこにいるなんて分からないだろ?住んでた場所の近所とは限らないし」
暑さで回らない頭で考える。
「あ~、それは、なんとなく分かるんだよ。親しくしてたやつは特に。墓がじゃなくて、死期がね。だから、こっそり着いてゆく」
言葉の少ない説明は頭の中で整理する必要がある。
彼はこっそり葬式に参加して、納骨にもついて行ってるという事なのだろう。
共に過ごしはじめて何年もたつが、彼の行動には謎が多い。
そもそも、自分の事については一切語ろうとしない。
彼が今までどうやって生きてきたかも知らないし、今何を思って生きているのかも良く分からない。
時々、日本での話はするのだが向こうにいた時、特に今の体になる前の話しは聞いた事がない。
今まで低い低音だけが聞こえていたはずが、木魚と鐘の音が断続的に聞こえてくる。
「お、クライマックスだな」
彼の突然な言葉に僕は思わず、境内を振り返る。
「クライマックスって・・・」
お経にヤマ場は存在するのだろうか?
ここついてから、彼が説明してくれた事がある。
今日は、御施餓鬼(おせがき)というらしい。
簡単に言うと、お経を聴いて、お墓に差すための新しい塔婆をもらい、墓にお供えをするための集まりだ。
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