「いいよ。もう終わったから、一緒に行こう」
頷いてくれるかと思ったが、彼は首を振り、そんな風に言ってのける。しかし、彼の仕事がまだ終わってないのは明らかだ。話の中心であろう彼が抜けた事で下ではちょっとした騒ぎになっている。
「何を言ってるんだ。明らかにお前を呼んでるだろ?王子様?」
足元を指差しながら、皮肉たっぷりに彼を呼ぶ。自然と自分の口元には笑みが浮かぶ。なぜなら、王子様と呼び掛けた瞬間の彼の表情の変わり様が、面白かった。
「いやだな。キミにそんな風に呼ばれると寒気がするよ」
「失礼なやつだな」
「もういいんだよ。必要な事は話したから、後は彼らが好きなように決めてくれれば」
どうでもいいと言わんばかりに、歩きだす。彼がそう思うのなら仕方ない。きっと何を言っても聞かないだろう。彼に並ぶ事はせずに同じように歩き出した。
「おい!ちょっと待て、お前ら」
しかしすぐに再び呼び止められた。だが、それはどう考えてもここの店員のものではない。
立ち止まり、ちらりと振り返り相手の姿を確かめる。
さっきのヤツの仲間か?
そう思ってよく見てみれば、彼の肩には先ほどのヤツと同じエンブレムが付いている。
どこかの家に雇われている証拠だ。
「あれは、どこのだ?」
わざわざ隣にやってきて、楽しそうに状況を見ている少年に問いけた。
「ん~、大丈夫。大した事ないから」
「そうか」
至極簡単な答え。
「お前、良くも俺の相棒を・・・!!」
怒りのあまり言葉にならないのか、中途半端に途切れ、ワナワナと震えだし、怒りに満ちた瞳が隣にいる少年へと向けられた。
どうやら、彼の方が弱いと判断したようだ。彼はその視線を受けても、微笑んだままで動かない。
それを、動けないと判断したのか、男は大きな鎌を振りかざし、走り出す。
「・・・ッチ」
思わず舌を鳴らした。
色々な考えが頭の中をめぐったが、結局何も手にすることなく男の前に飛び出し、そのまま低く体制をとる。そんな行動を見た男に一瞬だが迷いが現れる。何も持たずに飛び出したのに驚いたのだろう。
そこを見逃さない。
相手の懐に入り込み顎めがけて手の平を突き出す。
体格に差があるから可能なこと、しかしその体格の差のせいでこの攻撃はあまり意味を成さない。
けれど、目的は相手の意識をこちらに向けることとついでに、隙が作れれば何の問題もない。
ダメージなど最初から期待してはいないのだ。
それでも、多少の効果はあったらしい。フラフラと男の足元がおぼつかない様子だ。