周りにいる人間は、傍観者を決め込み、止める気もなさそうだ。
こうなったら、自分で動くしかないだろう。
あまり目立ちたくはなかったのだけれど、仕方がない。そう思い、相手の腰に引っ掛かっているものに手を伸ばす。
自分のものは極力汚したくなかった。
柄を握って勢い良く引き抜き、そのまま目の前に振り下ろす。力は入らないがこうゆうのは角度の問題だ。
確かな手応えを感じた瞬間、今まで感じていた浮遊感が消えた。
そして、生暖かいものが降り注ぐ。
しまった、もっと考えてから斬れば良かった。
そう思っても既に遅い。
男の腕があった場所からは絶え間なく鮮血が噴き出していた。
「悪いけど、あんたにガキ呼ばわりされるほど経験浅くないんだ」
多分相手は聞いてない。それでも言っておきたかった。
「お客様、困ります…」
静かにやってきた店員をひと睨み、すると彼は押し黙る。
うるさい事を言われる前に立ち去ろうと、持っていた男の剣を放り出し、店の出入口に向かって歩きだした。背後では、腕を斬られた男が未だに騒いでいる。
折角、金になる仕事が入ったのだが、これは諦めるしかないだろう。
「待ちなよ、依頼主の許可なく勝手に帰るとは、随分と自由きままに仕事してるんだね」
成人男性とは思えない高い声。この場に似つかわしくない声。振り返ると、にこやかに笑う少年が立っていた。
「上が騒々しいから何かと思って、階段上がってたら、ガキって言葉が聞こえてくるじゃない?ああ、絶対騒動の中心はキミだって思って、慌てちゃったじゃない、僕」
「やっぱりお前か、こんな中途半端な依頼書送り付けやがって何考えてるんだ」
「嫌だな、別に大した事考えてないよ。ただ僕の記憶の中で一番出来るのはキミだったから、キミを呼んだだけ。まさか、たった一人の友人を見放す気?」
「悪いがお前を友人だと思ったことは一度もないぞ」
「じゃあ何で来てくれたのさ?」
「金のためだ」
「相変わらず、お金大好きだね。まあ、払うけどね」
「当たり前だ」
彼の言葉を聞き終えて、くるりと出口へ向き直る。そして、歩きだしながら付け加えた。
「後でまた来る。コレをどうにかしたい」
己の姿をアピールしてみせる。全身、他人の血で染まっていた。
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