気の向くままに徒然と・・・
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プロフィール
HN:
遼 莉杏
性別:
非公開
自己紹介:
自称、「言の葉」使いの物書き。

遼 莉杏と書いてハルカ リアンです。


最近のマイブームは
『薬屋探偵妖綺談』シリーズ
羞恥心

創作仲間・相互リンクしてくれる方を常に募集中。
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約束の場所にやってきてから1時間。
相手は現れそうも無い。
来た時に注文した料理は既に食べ終わっており、片手のグラスの中身も空だった。
それでも、待っている理由は相手がどこで何をやっているのか想像がついたから。

大して意味もなく視線を周りに巡らせてみる。
一番に目につく物は、いくらか間隔をあけて壁に貼られた、貴族様の家のエンブレム。
どれも、己の強さを誇示したものであまり趣味のいいものではなかった。
視線と思考を遠くへやってみても、すぐそばでされる会話は嫌でも耳に入ってくる。
始まった当初から内容は微塵も変わっていない。

なんて不毛な会話なのだろう?

円柱形のこの建物は、かつて要塞だった一部を改装して出来上がったものだ。若い頃に冒険家だったオーナーの趣味であちこちに帆船の模型や地図が貼られていた。その地図が洒落ていて面白い。
まだきちんとした技術もない時代に書かれたそれは、半分が想像で出来たものだった。
今より何倍も夢の詰まった宝の地図だ。
果てることのない空想の世界へ旅立とうとしているところで、隣から声をかけられた。
「なあ、あんたはどこの家に雇われたんだ?」
そう問うてくる男に一度だけ視線を向ける。
品のない笑いを浮かべたその顔は見ているだけで、嫌悪感が増す。
「あんたに話す義理はない」
短く、正面を見据えたまま答えた。
この店の灯りである蝋燭が一斉に揺らめき、あたりが一瞬暗くなる。
そして静まり返る店内。
唯一聞こえていたのは、バーテンがシェーカーを振る乾いた音だけだった。
しばらくして、自分が置かれている現状を把握する。今しがた、話し掛けられた男に胸ぐらを捕まれ、地に足がついていなかった。
大して焦っていないのは、相手の男が弱すぎて、まったく苦痛を感じていなかったから。
もう少し、状況を見てから動いても遅くはないだろう。
「ガキが澄ましてんじゃねぇよ」
男の台詞に思わず眉間に皺が寄る。
「何か言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうなんだ!?
そうは言われても、首の閉まりかけたこの状態では言葉は出ない。


周りにいる人間は、傍観者を決め込み、止める気もなさそうだ。
こうなったら、自分で動くしかないだろう。

あまり目立ちたくはなかったのだけれど、仕方がない。そう思い、相手の腰に引っ掛かっているものに手を伸ばす。
自分のものは極力汚したくなかった。
柄を握って勢い良く引き抜き、そのまま目の前に振り下ろす。力は入らないがこうゆうのは角度の問題だ。
確かな手応えを感じた瞬間、今まで感じていた浮遊感が消えた。
そして、生暖かいものが降り注ぐ。
しまった、もっと考えてから斬れば良かった。
そう思っても既に遅い。
男の腕があった場所からは絶え間なく鮮血が噴き出していた。
「悪いけど、あんたにガキ呼ばわりされるほど経験浅くないんだ」

多分相手は聞いてない。それでも言っておきたかった。
「お客様、困ります
静かにやってきた店員をひと睨み、すると彼は押し黙る。
うるさい事を言われる前に立ち去ろうと、持っていた男の剣を放り出し、店の出入口に向かって歩きだした。背後では、腕を斬られた男が未だに騒いでいる。
折角、金になる仕事が入ったのだが、これは諦めるしかないだろう。
「待ちなよ、依頼主の許可なく勝手に帰るとは、随分と自由きままに仕事してるんだね」
成人男性とは思えない高い声。この場に似つかわしくない声。振り返ると、にこやかに笑う少年が立っていた。
「上が騒々しいから何かと思って、階段上がってたら、ガキって言葉が聞こえてくるじゃない?ああ、絶対騒動の中心はキミだって思って、慌てちゃったじゃない、僕」
「やっぱりお前か、こんな中途半端な依頼書送り付けやがって何考えてるんだ」

「嫌だな、別に大した事考えてないよ。ただ僕の記憶の中で一番出来るのはキミだったから、キミを呼んだだけ。まさか、たった一人の友人を見放す気?」
「悪いがお前を友人だと思ったことは一度もないぞ」
「じゃあ何で来てくれたのさ?」
「金のためだ」
「相変わらず、お金大好きだね。まあ、払うけどね」
「当たり前だ」
彼の言葉を聞き終えて、くるりと出口へ向き直る。そして、歩きだしながら付け加えた。
「後でまた来る。コレをどうにかしたい」
己の姿をアピールしてみせる。全身、他人の血で染まっていた。


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