弐。
盆の準備のようなものかと問うたら少し違うと返された。
そもそもはもっと頻繁に開かれていたらしい。しかし、最近ではお盆の前にまとめて開くようになったのだとか。
仏教の話は難しいからと前置きをした割には、随分とあっさりとした説明しかしてくれなかった。
帰ったら何か本を探そう。
断続的に聞こえていた音が消え、人々が動く気配がする。
ざわざわと、思ったよりもたくさんの人が出てきた。
皆、手に塔婆を持っている。
部屋の中を覗くとたくさんの塔婆の前をウロウロとしている人が何人かいた。
自分が持っていくべきものがみつからないらしい。
塔婆には、故人の名が記されたものもあれば、よくわからない漢字だけが書かれたものもある。
中には紙がはりつけてあり、束になっているものもあった。
「お、坊主。今年も来たのか?」
そんな声が聞こえ、思わず周りをきょきょろと見回す。
案の定、話し掛けられたのは永夜だ。
「あれ?爺さんまだ生きてたの?」
見るからに、頑固そうな老人に向かって、永夜はとんでもない暴言を吐く。
「はは、言ってくれるな坊主。お前の方こそ、ちっとも成長してないじゃないか?」
「うわ~、それ言われると痛いな~。でも、身長が伸びないのはオレのせいじゃなし」
頭をぽんぽんと叩かれる永夜を眺めながら、僕は二人の関係を考えた。
が、分かるはずもない。
「ところで、見つけたのか?」
「ううん。まだこれから。爺さんは?」
「わしもまだこれからだ。」
「あれ?部屋の中に居たんじゃなかったの?」
「いたんだが、今の今まで隣と話しこんでおった」
「うわぁ~バチ当たりな事する人だなぁ」
「お前さんが信仰深すぎるだけじゃなにのか?今どきの若いもんがこんな事に興味があるなんて聞いたこともないぞ?特にお前さんみたいに、こんなちゃらちゃらしたもんが」
そう言いながら、老人は色素の薄い、黒髪とは程遠い永夜の髪をかき混ぜる。
「だから、オレのは地毛だっての。あんたんとトコのお孫さんと一緒にしないでよ」
「あはは、そいつは悪かった。ところで、お前さん。今年は中にいなかったのかい?」
「ああ、今年は連れがいたから」
永夜がこちらを指差すと、老人は僕の存在に初めて気づく。
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