気の向くままに徒然と・・・
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プロフィール
HN:
遼 莉杏
性別:
非公開
自己紹介:
自称、「言の葉」使いの物書き。

遼 莉杏と書いてハルカ リアンです。


最近のマイブームは
『薬屋探偵妖綺談』シリーズ
羞恥心

創作仲間・相互リンクしてくれる方を常に募集中。
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1時間目

初めて着る制服、初めて通る道、初めて入る敷地。
まるで想像もつかない新しい環境。
条件の良さで入った高校は、桜の綺麗な学校だった。
校門をくぐると体育館まで続く坂道に桜並木が続いており、新入生は自然とその並木道を通る形となる。
所々に、案内係と書かれたネームタグをつけた先輩たちが立って、僕らを笑顔で誘導していた。
僕の前に桜を見上げながら歩く親子連れが何組かいた。
友達同士連れ立っているグループもいくつか目に付く。そんな、彼らの共通点は期待と不安とを抱え持った気持ちと、消える事のない笑顔。一人歩く僕の姿は、きっと目立ってるに違いない。
そんな事を考えていると、一人ポツンと立ち止まり、桜を見上げている少年が目に留まる。
指定の鞄を持っていないので、先輩なのかとも思ったが、そうでもないらしい。
どこか寂しげな雰囲気で佇む彼は、少し不思議な雰囲気がある。
枝の間から差し込む日の光りを浴びて、色素の薄い髪が一瞬金髪に見えた。
春風が吹き、満開の桜を散らしながら、彼の髪をも散らす。
じっと桜を眺める彼は、ぴくりとも動かない。そんな彼を見て、僕は彼が泣いているように思えた。後姿しか見えないのに、涙を見た気がしたのだ。そっと、目を閉じて俯く。
実際に僕が見ているのは、彼が俯く姿だけだ。
そして、桜から目を離した彼が僕の方へと振り向いた。
その時、初めて自分が立ち止まっていた事に気づく。
当然のように目が合った。
僕は表情を変えるどころか、何の反応もできなかった。
彼は、気まずそうな顔をした後、ニッコリと笑い軽く手を上げた。
「よっ!キミも一人?」
今まで彼を包み込んでいた、不思議な空気が全て吹き飛び、変わりに妙に明るい空気に包まれた。
返事はせずに沈黙で返す僕に、彼は苦笑する。
「な~んで、初日からそんなにテンション低いのさ。これから、ウキウキ・わくわく素敵学園ライフが始まるんだからさ。もっと笑顔で行こうよ」
ペラペラと不可思議な事を喋る少年は、先ほどまでの彼とは別人にしか見えない。
「じゃ!いつかまた、校内で」
そんな言葉を残し、彼は体育館へ走り去って行く。
なんだったんだろうか?
そんな疑問が、頭に浮かぶ。
再び歩き出した先に、何人か走ってくる生徒が見える。
胸にプレートを付けているのを見ると案内係の先輩たち。
別に、普段からネームタグをつけるという決まりはないので、そう判断できる。
ちなみに、普段からつけなければならないものは、校章とクラス章、そして学年別のタイピンくらいだ。
「いたいた、キミだよね?一ノ瀬くんって?」
僕の目の前で止まり、そう話し掛けてきたのは男子生徒で、胸には生徒会章をつけている。
「あ、はい」
遅れながらも短く返事をすると、彼は笑顔で頷いた。
「良かった、新入生代表が休みだったらどうしようと思ったよ。さあ、行こう」
どうやら言われていた時間をとっくに過ぎていたらしい。

何もしないで、ただ座っているというのも、辛いものがある。
自分が舞台に上がったのなんて、ほんの数分で緊張する間もなく終わってしまった。
成績がいいから選ばれただけで、特に理由はない新入生代表。
挨拶の言葉は、その辺にあるありきたりな言葉を並べただけで、気持ちなんて微塵も篭っていなかった。
それでも、ダレもがみんな僕を認めてくれる。
笑顔の仮面貼り付けて、普通のフリしてれば大抵の人は、「嘘」の僕を受け入れてくれるのだ。
長かった1時間半も過ぎて、僕らはそれぞれ教室へと連れられてゆく。
得にする事もなく、出席番号順に決められた席に座っていると、今までいなかった前に席につく人物がいた。
その髪の色に見覚えがあった。
教室の暗い光でも、見方によっては金髪に見える色素の薄い髪。
「あれ?さっきのサクラ君」
「・・・・・・・・・。」
思いも寄らなかった呼ばれ方をされ僕は言葉に詰まる。
「何だよ、それは」
「だって、キミ。あの時桜を見てたでしょ?」
それはお前だろうという言葉は、なぜか出てこない。
「別に、桜を見てたわけじゃない」
「あれ?そうなの?」
彼を見ていたことを指摘されたくはなかったから。
「じゃあ、新入生代表の人」
身も蓋もない呼ばれ方をして、今度こそ反応の仕方を失う。
「あんた。だれ?」
辛うじて、漸く出てきた言葉はされだった。
「オレ?ヒサヤ、天崎永夜。よろしく」
そう言って彼は右手を差し出してくる。
不思議そうに彼の手を眺める僕に、彼は一度手を引っ込め、再び口を開く。
「名前は?1年間よろしくって事で握手しようよ」
「あ、ああ。一ノ瀬、かなた」
「うん、一ノ瀬かなたね・・・。よろしく、かなた」
にっこりと、邪気のない笑顔で改めて右手を差し出し来る。
僕はその手をとらずに、彼と視線を合わす。
「よろしくするつもりはないよ。天崎くん。」
だから、その手も引っ込めてくれと僕は続ける。
彼は、ムッと表情を歪めるが、すぐにそれも引っ込める。
「お前がよろしくしてくれなくても、オレがヨロシクするの!はい!」
そう言って、強引に僕の手を取り握手させる。
「ヨ・ロ・シ・ク!っと」
ブンブンと掴んだ僕の手も一緒に上下に振って、満面の笑みを浮かべた。


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