何もしないで、ただ座っているというのも、辛いものがある。
自分が舞台に上がったのなんて、ほんの数分で緊張する間もなく終わってしまった。
成績がいいから選ばれただけで、特に理由はない新入生代表。
挨拶の言葉は、その辺にあるありきたりな言葉を並べただけで、気持ちなんて微塵も篭っていなかった。
それでも、ダレもがみんな僕を認めてくれる。
笑顔の仮面貼り付けて、普通のフリしてれば大抵の人は、「嘘」の僕を受け入れてくれるのだ。
長かった1時間半も過ぎて、僕らはそれぞれ教室へと連れられてゆく。
得にする事もなく、出席番号順に決められた席に座っていると、今までいなかった前に席につく人物がいた。
その髪の色に見覚えがあった。
教室の暗い光でも、見方によっては金髪に見える色素の薄い髪。
「あれ?さっきのサクラ君」
「・・・・・・・・・。」
思いも寄らなかった呼ばれ方をされ僕は言葉に詰まる。
「何だよ、それは」
「だって、キミ。あの時桜を見てたでしょ?」
それはお前だろうという言葉は、なぜか出てこない。
「別に、桜を見てたわけじゃない」
「あれ?そうなの?」
彼を見ていたことを指摘されたくはなかったから。
「じゃあ、新入生代表の人」
身も蓋もない呼ばれ方をして、今度こそ反応の仕方を失う。
「あんた。だれ?」
辛うじて、漸く出てきた言葉はされだった。
「オレ?ヒサヤ、天崎永夜。よろしく」
そう言って彼は右手を差し出してくる。
不思議そうに彼の手を眺める僕に、彼は一度手を引っ込め、再び口を開く。
「名前は?1年間よろしくって事で握手しようよ」
「あ、ああ。一ノ瀬、かなた」
「うん、一ノ瀬かなたね・・・。よろしく、かなた」
にっこりと、邪気のない笑顔で改めて右手を差し出し来る。
僕はその手をとらずに、彼と視線を合わす。
「よろしくするつもりはないよ。天崎くん。」
だから、その手も引っ込めてくれと僕は続ける。
彼は、ムッと表情を歪めるが、すぐにそれも引っ込める。
「お前がよろしくしてくれなくても、オレがヨロシクするの!はい!」
そう言って、強引に僕の手を取り握手させる。
「ヨ・ロ・シ・ク!っと」
ブンブンと掴んだ僕の手も一緒に上下に振って、満面の笑みを浮かべた。
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