コンコン。
「おい、いるか?」
ドアを叩き、呼びかけるが返事はない。
念のためと思い、扉を開くが、そこに彼の姿はない。
次・・・。
断りもなく、洗面台へと続くドアを力任せに開く。
そこには、当たり前のように静まり返った空間が広がるだけで、何も存在はしなかった。
「・・・っ。」
扉を開けたまま次の行動に移る。
今さっき見たばかりのトイレのドアを再びあける。
もちろん、そこには何も存在しない。
しばらく、何を考えるわけでもなく立ち尽くす。他の部屋には全て鍵が掛けてある。
では、どこに?
まさかと思い自分の部屋に向かった。勢い余ってドアノブが手から離れ、壁にぶつかる。
やはり、そこには誰もいない。
「靴・・・。」
ここにきて漸く気づき、慌てて玄関へ走る。
「・・・!?」
必要最低限のものしか置かれていないそこには、靴が一足おかれているだけだった。
どうして?
そんな言葉が浮かぶ。
考えるより先に、体が動いた。重たく閉ざされた扉の向こうにはバカみたいに明るい空間があり、遠くの方でエレベーターが到着した事を知らせるマヌケな音が響く。
玄関に敷かれた石の冷たさで、全身に寒気が襲い我に帰り、ドアを閉めて寄りかかった。
なぜだ?
自分は何をしてる?
「何」を探してる?
「ダレ」を探してる?
一度たった鳥肌は中々消える事はない。
一度産まれてしまった思いを消し去る事はできない。
一度発せられた言葉は取り消す事はできない。
明かりもついてない部屋は、外の空気と関係ナシに色々なものを連れてくる。
この場にいたってしょうがない。
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