読めなかった手紙 6
「ただいま」
玄関を開けて、家全体に向かって帰宅を告げる。
「あれ、兄貴。お帰り、早かったね」
たまたま玄関にいたのは次弟の弘貴だ。ちょうど階段から降りてきたところらしい。
「なんだ、弘。いたのか?」
「いないほうが良かった?」
そう言う彼の視線は、オレの顔に固定されている。
「あ・・・」
「兄貴、もしかしてそのまま帰ってきたの?」
「いや、走ってたから」
聞かれた事にまともな答えが返せていない。
「ふーん。もうすぐコウが来るよ?」
言葉数の少ない彼との会話は難しい。けれど、長い付き合いだ、何が言いたいのかは良く分かる。
「よろしく」
「されとく」
弘貴に末弟の光貴の足止めをまかせ、オレは洗面所に向かう。
良く考えれば、泣いてそのままの状態で帰ってきていた。
そんな顔を、光貴に見られては何を言われるか想像をしただけでも面倒くさい。
洗面所に入ったところで、光貴の元気な声が聞こえてくる。何故かそれに母親の声も参加している。
家族には10時を過ぎるかもと言っていたのに、現在の時刻は8時を回ったところだ。
早すぎる帰宅に大騒ぎらしい。
顔を洗い、リビングに行くと無言の弘貴に向かって光貴がまとわりついている。
仲が良いのか悪いのか、良く分からない2人だ。
「お帰り、イツ。早かったのね」
「ああ、うん。店が早く閉まったんだ」
「あら、そうなの?夕飯は」
「大丈夫、食べてきた」
食べてきて良かった母親の顔を見て、改めて思う。
台所に視線を移せば、全てが片付け終わった後だった。状況から察するに父親は夕食を家で食べないらしい。
「いつ兄!」
弘貴から離れ、勢いに任せて光貴が飛んでくる。
危なくないように彼を避けて、行き過ぎたところで改めてこちらから捕まえる。
「光貴、一緒にフロ入るか?」
「うん、入る!」
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