織姫と牽牛の七夕伝説は有名だ。
多少の覚え間違い、勘違いを抜きにすれば大抵の人間が物語の同じ内容を語ることが出来るだろう。
しかし、彼が語ると大分それが異なる。
内容は変わらない、けれど語り方がすごいのだ。
「天帝の娘織姫は・・・」
まずは普通の七夕伝説が始まり、そこからどんどん話しが広がってゆく。
「だから、夏の第三角形は彦星であるワシ座のアルタイルと織姫である琴座のベガ。それに、白鳥座のデネブからなってそれが・・・」
話しはどこまで広がるのだろうか?
ボンヤリと曇った空を眺めながら永夜の話しを聞き流す。
地上へと視線を移すと、生徒は誰一人として歩いてはいなかった。
「もうそろそろ・・・いいと思うんだけどな・・・・」
そんな言葉は当然、熱く語っている永夜の耳には届かない。
「んで、その鷲はゼウスの使いと言われていて・・・」
当然のように語られている内容は、何故か七夕伝説から神話へと話しが移っている。
国どころか大陸、いや世界が違う。
造物主の天帝と全能の神ゼウスとはどちらが偉いだろうか?
「ってかなた、聞いてる?」
「ああ。安心しろ、ちゃんと聞いてる。江戸時代以降、民間に広まったんだろう」
我ながら、良く聞いていると思う。
どうでもいいことを考えていても、相手の話をある程度把握するのは必要なことだ。特に永夜の場合は一々話を聞いているかどうか確認してくる面がある。
そんな事を考えるながら、再び永夜の話しに耳を傾ける。
ちなみに、日本に来たのは奈良時代だそうだ。
その頃と現在の形とでは大分変わっているらしい。
昔は裁縫の上達などを願って行われていたが、現在では願い事なら何でもアリになっている。
そう考えると、当時の人間の解釈の仕方は結構すごい。
「んじゃあ、かなた。最終問題です」
七夕伝説を語り終えたらしく、いきなりテンションが上がる永夜に対し、僕のテンションは更に下がる。
「何?」
「7月7日は七夕以外に何の日でしょう?」
嬉々として、右手人差し指を立てて首を傾げてみるせる永夜は、幼くて見えて少し可笑しい。
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