ぐっと見えない何かに剣が押され、己の体に今までとは比べ物にならない圧迫感が加わる。
そのまま、消えるのを待とうと思ったがそんなレベルではなさそうだ。
弾いた方が早いか。
彼の攻撃は本気ではないが、お遊びでもない。自分が耐え切れなくなる前に、考えを変えたほういい。
圧迫感はあっても直接受けたわけではないので、痛みはない。用は競り勝てばいいだけの話だ。
「無駄だよ。アキ」
剣を引くと、その剣に引き寄せられるように、「力」が一緒に移動する。
「やってみなきゃ分かんない・・・だっ、ろうが!」
全身の力を使って、剣を振りぬいた。無理な力が入ったためか「力」と共に剣までも手から抜け飛ぶ。
「強引だなぁ・・・。結局、僕が消さなきゃいけないじゃん」
苦笑と共にシュタが片手を突き出す。
ニヤリと思わず頬が緩む。彼が、意識の全てを手に向けていることをいい事に、懐に入った短刀を素早く抜いてその場を動く。
例えようのない「力」が部屋から消滅したのを感じ取り、彼が己の中に吸収したのが分かる。
「終わりだ、シュタ」
体を密着させ、今度は余計な事が出来ないように動きを封じて、相手の首にナイフをあてがった。
「まだだよ」
普通に考えて、魔法相手に剣1つで戦うのは不利だ。向こうはこっちに一歩も近づかずに攻撃できるのに比べ、こちらは相手の懐まで飛び込まないと何の意味もない。
「どうやって?」
「ものは考えようだろう?」
ニヤリと笑って、間をおかずに床を蹴る。同時に右手の剣を左へ移動。
日々の生活から、体中のあちこちに武器を忍ばせるのは癖と言ってもいいほどになっていた。
ズボンのポケットに入ったものを相手の逃げ道を塞ぐ形で投げつける。
確かに剣1つでは不利だ。
しかし、こちらも飛び道具を持っていれば、状況は変わる。
相手に魔法を使う暇を与えなければいい。それだけの話だ。
いくら、呪文も詠唱も必要のないシュタでも、ものを投げるよりは時間がかかる。
間髪いれずに次々にお手製の小型ナイフを投げつけた。
相手の逃げ道をこちらで操作するのも忘れない。
自分で作ったものなので数ミリ単位で投げる位置を操作できる。
逃げるシュタを追いかけながら、残りの数を考えた。
シュタの右手には完成しきっていない「力」がある。集中させなければいけるだろう。
「逃げてるだけか?」
「あはは、とんでもない。今だけだよ」
彼の癖は嫌というほど知っている。
手の動きを見ていれば、次に出される魔法が何かなんてすぐに予測がついた。
「アキ、怪我しても知らないから」
「部屋は壊すなよ」
フっと笑って見せて冗談を言う、彼の眉間に皺がよるのを見逃さない。
手持ちのナイフを全て投げつけ、最後のとどめとばかりに片手に持っていた剣を投げつけた。
ナイフと剣を投げるのに、ほんの少しだけ間を置くのがポイントだ。
「くそっ!」
ナイフは軽く避けられても剣は難しい、彼の体が大きく動く。
シュタが避けるために体勢を崩すのと同じように、片手に中途半端に出来上がっていた術が崩れる。
剣は狙い通りのところをすぎ、彼の後ろの壁に突き刺さった。
最初のナイフで動きを封じ、剣で止めを刺す。
自分の中ではこれで終わりだった。
ほんの一瞬でも死を感じれば、この程度の「試合」では結果がついたことになる。
しかし、事はうまく進まない。
ピンと空気が張り詰め、彼の手の中で新しい「力」が膨れ上がる。
咄嗟にシュタから距離を置いて睨みあった。
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