・・・・・・・。
雷だと、気がつくまでにしばらく掛かった。
「落ち着いたか?かなた。」
ボー然としていると、上から声が降ってきた。
いつの間にか、床にしゃがみ込んでいたらしい。名前を呼ばれたのもあって視線を上に向ける。
「何を・・・するんだ?」
「ああ。証拠、見せようと思って。」
あまりにも、あっけらかんと言うもんだから、僕は、次に彼がどんな行動に出るのかが想像がつかなかった。
「かなた。見てろ。」
そう言われては、見ていなければならないと、素直に従う。さっきまでの怒りはどこへいったのか?
もう、自分自身も永夜の事も理解できない。
立ち上がると、永夜が後ろへ下がれと言う様に、手をはらっている。これにもなぜか僕は、大人しく従う。
彼はというと、左手の袖をめくり、ちょうど手首のところに、右手で持った小型ナイフを当てている。小型ナイフと言っても果物ナイフのような物だ。
ナイフの事なんてまったく知らないから分からないが・・・。
銃刀法違反。
僕の中でそんな言葉が浮かんだ。
護身用?
彼は、僕のほうへ視線を向ける。
目が合った。
彼が、ニヤリと笑う。
先ほどから見ている嫌な笑みだ。
「掃除が大変なんだよなぁ・・・。」
と意味の分からないことを呟いくと、右手に力が入るのが見て取れた。
そこで、僕は初めて気づく。
彼が何をしようとしているのか・・・。
「ま、まっ、待て!永夜!」
叫ぶ事はできても、体が動かなかった。なぜ、すぐに気がつかないんだ。
彼はさっきからナイフを片手に持っていた。
だから、「何をするんだ?」と聞いたんだ。
「っ痛―・・・。」
雨音とは別に、水滴が落ちる音がする。
「やっべぇ!力入れすぎたぁあ。うっそ、ストップ、ストップ!つーか、かなた見てろ!だあぁー」
急に騒がしくなる。
ストップと言いながら手首を押さえているが、無理だろう。それで、血が止まれば、医者なんて必要ない。
「だあ、ウッソぉ、床、真っ赤?うげぇ・・・。」
辛うじで日本語に聞こえる言葉を発しながら、彼は手首を押さえている。
彼の足元は、真っ赤に染まっている。出血量は尋常じゃない。
「加減、間違ったな・・・。クラクラしてきたし。」
そう言いながら、机に深く座り、窓に寄りかかる。彼の腕から、血は・・・もう流れて・・・いない。
早く・・・ないか?血が止まるの・・・?
「あっ、ほら、かなた・・・見てみん。」
彼は僕に見えるように左手を差し出す。
右手を額に当てながら、天井を眺めている。多少、呼吸が乱れて聞こえるのは気のせいか・・・?
僕はゆっくりと彼に近づく。
血溜まりを避けて立ち止まり、彼の左腕を取る。
酷く冷たかった。
・・・・・・・・・・・・。
しばし、眺める。
傷は見えない。
こんな薄闇では見えないらしい。
右手で、ゆっくりと触れてみる。
乾いた血がザラついていた。
しかし、出血が止まっているのは確かだ。
だって、乾いているんだ。ネットリはしていない。