「夏休み前、話をしたのを覚えているか?」
言葉を発さずに、ゆっくりと首を振り否定の意を示す。
話なんて、数え切れないぐらいしているんだ。どれの事を言っているのかがまったく分からない。
「えーっと、何て言えば分かりやすいんだ?」
急に、空気が変わった。
しまった、というように彼は右手で前髪を掻き上げている。
彼の雰囲気がいつものモノに戻る。さっきのはただの気のせいか?
「何の話なんだ?もっと、具体的に言ってくれなきゃ分からない。」
思ったよりもスラスラと言葉が出た。そういえば、普段話をしていても、時々違和感を覚えるときがある。
「あぁっと、ほら、オレの誕生日にした話!」
「お前の誕生日?・・・ってもしかして・・・。」
「そう!誕生日が好きか嫌いかって話。」
先ほどとは、全く違うテンションで話を進める彼に対し、僕のテンションはまた一段と落ち込む。
「あの話はもう忘れてくれ。」
「うんにゃ。忘れられないね。約束したし。」
うんにゃって・・・、何語だよ。しかも約束って・・・?
「約束・・・って何?」
「言ったろ?お前の誕生日には、お前を納得させる言葉を見つけておくって。それで、かなた。お前の考えを改めさせてやるってな。」
自信満々の笑顔で彼は語る。
「無理だ。嫌いなものは嫌いなんだ。今更、好きにはなれない。」
「ああー。好きにはならなくていいよ。きっとお前のことだから、そこまでは考え方変えられないと思うから。せめて、嫌いじゃなくなって欲しいと思ってね。」
窓の外で空が光る。外は相変わらずの大嵐だ。
窓を背に、机の上に座っている彼の表情が光のせいで影って見えなくなる。
そして、今になって教室の電気が点いてない事に気がついた。
だいたい、自分ですら何でこんなにも嫌っているのか分からないのだ。今更、他人にどうこう言われて、好きになれるようなものではないないだろう。
「そこまで言うなら、聞いてやる。」
「だろ?オレってば、この四ヶ月間マジメに悩んだんだぜ?」
さっきよりは近くで雷の音がした。
聞くだけはタダ。損することはないだろう。
・・・・・・・。
お互いにしゃべらないでいると、辺りはシーンと静まり返る。
否、僕がそう感じるだけで、実際は窓に当たる雨音や吹き付ける風の音とが断続的に聞こえている。
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