「レイスや、理事が何か隠しているのは気づいたけれど。それが、何かまでは僕は知らない。そんな焦って聞く必要がないと思ったんだ」
何かに言いよどむ俺に気づいてシュタが自ら説明する。
「そうなのか?」
「うん」
来たときにすぐに気づくべきだった。寮が静かなのはただ授業中のためだと思っていたが、それもおかしい。
自分たちはさきほど、校舎で補習中の生徒に会っている。
そもそも、今は長期休暇に入ったばかりの時期で授業はないのだ。たしかに、長い休みに家に帰る生徒は多いが、ほとんどの生徒は家が遠すぎて帰れない。
それに、休みはまだ始まったばかりだ。帰る生徒がいるのだったら、中盤に入ってからが多い。そして何より、明日卒業式を行うと言っている、それがいくら急遽入った予定だとしても、生徒がまったくいないのはおかしな話だ。
では、なぜこんなにも生徒がいないのか?
考えたって答えはでない。しかし、事実は目の前にある。
「でも、この寮内にまったく生徒がいないなんて」
「信じられないなら試してみればいい」
そういいながら、一番近くにあるドアをノックする。
返答はない。
念のため、ドアノブをひねる。簡単に開いてしまった。中を覗いてみるとやはり誰もいない。
「鍵を開けっ放しで外出はしないよね」
隣の部屋のドアを開けていたシュタが首をかしげながら言う。
そして、その隣へ移動し、ドアを開ける。
「鍵を開けたままでどこかへ行けと指示があったって事?」
さすがシュタ、彼は理解が早いので面倒な説明が省けて非常に助かる。
「そこまでは…。でも、もう一つ気になることがある。大地の棟について」
「がどうしたの?」
「実際に行ってみたほうが話が早い」
そう言ってレイスの様子を伺うが、彼は何も言おうとはしない。
大地の棟は来客専用の宿泊施設だ。
それを卒業式の来賓客が使っているのは分かる。しかし、それが満室になるのはどう考えてもおかしな話だ。生徒用の寮ほど大きくはないが、小さくもない。
年に1度ある、学園祭では何百人という客を招待するのだが卒業式は多くても数十人。
彼らに付いてくる使用人に部屋を貸しても余るほどだ。
では、なぜ自分たちは例外だと言われながら生徒用の寮にいるのか?
外へ出ると、もうすでに日が沈んでいた。
寮を振り返る、やはりどの部屋も明かりはついていなかった。
ここから大地の棟までは歩いて5分ほどの場所にある。3人で黙って歩いているとすぐにそれは見えてきた。
『立ち入り禁止』
と書かれた立て看板。当たり前だが普段はこんなもの存在しない。
一度だけレイスを振り返る、振り返るだけで何かを言うことはない。看板の横を通り過ぎ、扉に手をかけようと手を伸ばした。
「いらっしゃい」
どこからともなくそう声がかかる。
姿が見えないが、声だけで誰なのは判断できた。伸ばした手を下ろし、軽くあたりを見ますわが姿はない。
「隠れんぼは終わりだ。理事長?」
姿の見えない相手に話しかけるのは何ともいえない気分だが、ドア一枚隔てた向こう側にいるのは確かなので問題はない。相手の反応を待とうと、ドアに手を掛けずに数秒間をあける。
「理事、入ります。結界を一部解いてもらえますか?」
理事長の答えを待つことなく、話しかけたのはシュタだ。気のせいでなければ、その声には若干の怒りがこめられている。
「シュタ?」
そんな彼に場所を譲りながら、ドアを睨みつける横顔に話しかけるが、彼の耳には届いていない。
ただ正面を向いたまま、独り言のように言葉を発する。
「確かに今までも、あなたの遊びには付き合ってきた。もちろん、何も言わずにね。でも、今回は性質が悪すぎる」
言い終わると、シュタが勢い良く扉を開け放つ。
彼の言葉にはどうも引っかかりを覚える場所がいくつかあったが、いまはそれどころではない。
扉を開けた瞬間、背筋にゾクリと寒気が走った。それをどうにか押さえ、目の前の事に集中しようとするが、何かが引っかかる。
「早かったね。もう少しごまかせると思っていたよ。少し、君達を甘く見すぎていたかな?」
「あなたが、何をしようが勝手ですが、それにこんな形でレイスを巻き込んだのは許せない」
「シュタ」
今にも攻撃を仕掛けそうなシュタを下がらせ、自分が前に出る。違和感の正体を探るために理事長との会話は必要だ。
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