「泣いてもいいじゃない?」
忘れていた存在を思い出す。
「永夜・・・?」
「何さ?」
名を呼んだ理由なんてない。
「泣きたければ、泣けばいいよ。我慢する必要ないと思うけど?」
「・・・別に泣きたくなんか・・・。」
言葉を紡ぐ事にも抵抗を感じる。抑えきれないのは、何か大きな塊。
「否定できる?できないでしょ?お前が、そんな顔をする理由わかった気がする。」
「何?」
「ずっと、我慢してきたんでしょ?泣くの。何でかしらないけど・・・。でもさ、人間が泣くのってすごい意味があるんだよ。だから、無理やり押さえ込んじゃダメなんだ。」
全てを分かったような語り口。
「何も知らないくせに、お前に何が分かるんだ。」
何をそんなに知っている?
「言ったじゃん。何も知らないし、分からないって。生憎、オレはそこまで万能じゃないからね。でも、お前も泣けない人間の気持ちなんて分からないだろう?」
「・・・・泣け・・ない?」
「そう。泣かないんじゃなくて、泣けないの。オレの場合。」
どこか、ふざけた喋り方。内容は、今までにない深刻さなのに、彼はいつも誤魔化そうとする。
「何で?」
「契約の代償。永遠の命の代償にオレは涙を失くした。」
静かに語る彼の横顔は無表情。何を考えているのかなんてまったく読めない。それどこか、彼は感情をどこかに置いてきてしまったような声で、言葉を紡ぐ。
「どうって事ないって思うだろう?オレも最初は思ってた。でも、そうじゃないんだ。そんな事なかった。涙を流す事で、人は色んなものを洗い流すんだよ。汚れてしまったり、乾いてしまった、そして霞んでしまった心を綺麗にするために。」
「・・・・・・。」
僕はただ黙って彼の話を聞く。彼に言うべき言葉が見つからない。そして、声を出してしまえば、今まで閉じ込めていたもの全てが出てきてしまう気がしたから。
「だから、泣く事ができるなら、泣いたほうがいい。オレがいない方がいいなら、移動するし。」
「・・・・・・・。」
「かなた?」
「泣けって言われて、泣けるかよ。人間、そんな簡単なもんじゃないだろ?泣き方なんて、もう忘れた。僕は、あの日もう二度と泣かないと誓ったんだ。」
冷静さを忘れた頭は、必要のない言葉まで足してしまう。
「誓った?」
こうなってきたら、もう後は勢いに任せるしかない。
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