気の向くままに徒然と・・・
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HN:
遼 莉杏
性別:
非公開
自己紹介:
自称、「言の葉」使いの物書き。

遼 莉杏と書いてハルカ リアンです。


最近のマイブームは
『薬屋探偵妖綺談』シリーズ
羞恥心

創作仲間・相互リンクしてくれる方を常に募集中。
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・*・。*『永久の恋文』・*。・*

幼い頃からの夢だった。
小さくてもいいから、自分の店を持つ事。
薄っ暗い店内にジャズを流して、常連客と談笑しながらコーヒーを入れる。
彼らにはもちろんマスターと呼んでもらいたい。
そんな話を彼女にしたら、笑われて終わってしまった。
どうやら冗談だと思ったらしい。
 
 メールだなんで便利な連絡手段はまだ存在しなかったあの時代。
僕たちの連絡手段は主に手紙だった。
遠く離れていたわけではない。けれど、お喋りが苦手な彼女は、手紙のほうを好んだのだ。
郵便屋を通して手紙を出す事もあったが、大半は会ったときの別れ際に渡していた。
そんな時、手紙は決まって瓶の中に入っていた。
理由は分からないが彼女がそうして渡してくれたので、同じように返していただけだった。
今になって後悔している部分もある。
どうして理由を尋ねなかったのか…と。
そんなやり取りが、何回も、何週間も何年も続いた。
結婚を申し込んだのも手紙だったし、返事を貰ったのも手紙だった。
指輪なんて買えないから、せめてという思いで、いつも無色透明だった瓶を彼女の好きな綺麗な夕陽色にして手渡した。
返ってきたのは、どこまでも広がる空と同じ色をした瓶だった。


 最初、彼女は大反対だった。
そんなものやっていけるわけが無い。
お金を無駄にするだけだ、あきらめなさい。
話題に出す度にケンカになった。
子ども達はそれぞれの家庭を持ち、このまま定年まで働いていてもつまらない。
お金ならある。
だから時間をくれと何度も頭を下げた。
しかし、彼女は首を縦に振る事はなかった。
これで無理ならあきらめよう。
そう思って、彼女に手紙をだした。
もちろん瓶に入れて。

 しかし、返事はこなかった。
彼女はその日、帰らぬ人となったのだ。
葬式の日、息子から手紙を渡された。母からの預かり物だと言って。それは、返事ではなかったが最後の彼女からの手紙だった。
それには、色々と書いてあった。
彼女が不治の病にかかっていた事、そして、僕に迷惑をかけたくなかったから必死で隠し続けた事。
だから、頭ごなしに反対していればいつか愛想をつかして自分を見捨ててくれるだろうと思っていたこと。
僕を愛していた事、そしてこれからも一緒にいたかったという事。
最後に付け加えられていた文に目が行く。

「喫茶店、私は大賛成です。
貴方の好きなようにやってください。
ただし、ひとつだけ条件があります。私を一番最初のお客さんにしてください」

いつの間にか涙が出ていた。
涙が止まらなかった。
あの日、手紙を読んだ彼女は何を思っただろう?
何で、僕は彼女の異変に気づいてあげられなかったのだろう?
日々の生活を思い出してみるが、彼女が病気だったという事実は見当たらない。
そんなにも僕は彼女の事を見ていなかったのだろうか?
そんなことはない。
誰よりも彼女を愛していたし、愛されていた自信がる。
今も、玄関で見送る姿が思い浮かぶ。それが彼女の最後の姿だ。
その姿が以前よりもずっと小さくなっていたことに思い当たる。
そういえば、食事の量も随分と減っていた。
「最近若者の間でも流行ってるの、サプリメントっていうのよ」
そんな風に言いながら錠剤を飲んでいた。
あれは、病気のために飲んでいた薬だったということだろうか?
涙が止まらない。

 だから僕は、葬式の次の日、会社に辞表を出した。
止める部下を引き剥がし、会社を後にした。
まずは、場所を探そう。家を売り払い、息子の家に転がり込む。
少しでも資金の足しにしたかった。店を出す事は、息子にも嫁にも言っていない。
妻を亡くした私に彼らは本当に良くしてくれた。
条件にあった物件を見つけ、店を開業するまでに2年半かかった。
最後まで悩んだのは店の内装と名前だった。
何もなかった壁に棚をつくりつけ、そこに彼女からもらった手紙を全て瓶に入れて飾る。
あっというまに、壁はいっぱいになった。それでも、手紙はまだ手元に残っている。
何かの拍子に落ちて割れてしまわないように、全ての瓶を固定しておくのも忘れない。
店の名前はどうしょうか?「空」という文字を入れようと思っていたが、妻の名前でも構わないと思っていた。
でも、どうせなら洒落た名前がいい。
そんな時目に入ったのが、壁いっぱいに並んだ瓶に入った手紙だった。

・・・これだ。


そんな話を彼女にしたのがちょうど去年のクリスマスだった。

とびっきりのお洒落をして、今か今かと彼の到着を待ちわびていた。
しかし、そんな日に限って彼は遅刻らしい。
めずらしい。
たまたま、他に客がいなかったために彼女に昔話をしたのだ。
普段から、この店を待ち合わせ場所としている彼女たちとは、僕も常連客たちもすっかり打ち解けていた。
そんな彼女たちが来なくなったのはそれから3ヶ月後の事だった。
しばらくしてから、彼がひとりでやってきた。
彼女が入院をしている事、退院できそうもないこと、そして、ここのコーヒーとケーキを食べたいと言っていること。
それだけ話して彼はすぐに店を出てしまった。

 再び彼が一人でやってきたのはそれから1ヵ月後の初夏のことだった。
そこで、彼女が亡くなった事を知らされた。
彼はそれだけ言うと、泣いたような笑顔を残して帰っていた。
それから、彼は時々ふらりとやってきてはいつも彼女と座っていた席について、しばらくボンヤリして帰るという事が続いた。常連客たちも事情を知っているだけに、ダレも話しかけるものはいなかった。
会話が出来るようになったのは、季節が移り変わろうとしていた時だった。
近所のライトアップされた並木道に行ってきたと、泣き腫らした目をして教えてくれた。
何かが彼の中で変わったらしい。

 それから、学校帰りに寄っては常連客たちと軽く談笑して帰るようになり、みんな安堵したものだ。
「イツくんクリスマスはどうするの?」
何気ない質問だったに違いない。しかし、言ってしまってから、口にした常連客の動きがとまる。
つられるように周りの人間の動きも止まってしまった。
僕も例外ではない。
「ああ、家族と過ごしますよ。弟がうるさいんです。遊んでくれって」
そんな周りを他所に彼はスラリと答えた。
僕らが思っているよりも彼はずっと強かった。


 クリスマス当日、彼が現れたのには驚いた。
カウンター席を素通りして、彼は彼女と座っていたいつもの席に着いた。
みんなが何ともなしに彼へと視線を送る中、僕は彼に注文の品とプレゼントを届ける。
しまったと思ったのは彼の表情を見たときだ。
カウンターに戻ると皆に怒られた。しかし、ボンヤリと窓の外を眺める彼を見ているのは痛ましい。
だからという事ではないが、思いついたことを口にする。
「そうだ、逸貴くん。冬休み、暇ならバイトしない?」
「え?」
帰ってきたのは、言葉とも取れないような声だった。
唐突すぎたらしい。
「一人くらい欲しいなって思ってるんだ。募集するほどではないんだけど」
言い訳するように付け加えたが、いまいち効果は薄そうだ。
「あ、じゃあマスター。俺やりますよ、俺」
「キミにまかせると、店が潰れそうだ」
「ひどいなぁ」
横から関係のない者が割り込んでくるのを簡単に流す。
「僕は逸貴くんに来て欲しいんだよ」
最後の一押し。
「私もイツくんみたいな子いたら毎日通っちゃう」
「キミはもう、毎日来てるだろう?」
「あれぇ?」
「考えておきます。ご馳走様でした」
女性客の言葉に彼は微笑み席を立つ。当然のように、カウンターに勘定を置いてゆく。
その視線が一瞬だけ横に置かれた瓶に行った。
やはり彼には聞かせよう。
彼女にしたのと同じ話しを。


15年前のクリスマス、一番最初のお客は空色と夕焼け色の小さな瓶だった。
彼女は今もここにいる。
中身の手紙は毎日新しいものをいれていた。


扉に手を掛けた彼に呼びかける。
「逸貴くん」
振り返り、目が合ったのを確認してから笑いかける。
「メリークリスマス。またおいで」


゜☆・*。・★・゜・☆・*。・★・゜*。・☆・*。・★・゜・☆・*。・★・゜


ごめんなさい。本日とっても長いです。
力入りすぎました・・・笑。
そして、暗いです。
ついでに分かりづらいです。
でもわざとだったりします。
「彼女」という表現で違う二人の人物さしてますが。
その切り替えをあいまいなままになってます。
ページが変わるってだけの分かりづらさ。

今回の共通点は見つけるまでもない感じで・・・。

でも、実は1つじゃなかったりします。
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