そんな話を彼女にしたのがちょうど去年のクリスマスだった。
とびっきりのお洒落をして、今か今かと彼の到着を待ちわびていた。
しかし、そんな日に限って彼は遅刻らしい。
めずらしい。
たまたま、他に客がいなかったために彼女に昔話をしたのだ。
普段から、この店を待ち合わせ場所としている彼女たちとは、僕も常連客たちもすっかり打ち解けていた。
そんな彼女たちが来なくなったのはそれから3ヶ月後の事だった。
しばらくしてから、彼がひとりでやってきた。
彼女が入院をしている事、退院できそうもないこと、そして、ここのコーヒーとケーキを食べたいと言っていること。
それだけ話して彼はすぐに店を出てしまった。
再び彼が一人でやってきたのはそれから1ヵ月後の初夏のことだった。
そこで、彼女が亡くなった事を知らされた。
彼はそれだけ言うと、泣いたような笑顔を残して帰っていた。
それから、彼は時々ふらりとやってきてはいつも彼女と座っていた席について、しばらくボンヤリして帰るという事が続いた。常連客たちも事情を知っているだけに、ダレも話しかけるものはいなかった。
会話が出来るようになったのは、季節が移り変わろうとしていた時だった。
近所のライトアップされた並木道に行ってきたと、泣き腫らした目をして教えてくれた。
何かが彼の中で変わったらしい。
それから、学校帰りに寄っては常連客たちと軽く談笑して帰るようになり、みんな安堵したものだ。
「イツくんクリスマスはどうするの?」
何気ない質問だったに違いない。しかし、言ってしまってから、口にした常連客の動きがとまる。
つられるように周りの人間の動きも止まってしまった。
僕も例外ではない。
「ああ、家族と過ごしますよ。弟がうるさいんです。遊んでくれって」
そんな周りを他所に彼はスラリと答えた。
僕らが思っているよりも彼はずっと強かった。
クリスマス当日、彼が現れたのには驚いた。
カウンター席を素通りして、彼は彼女と座っていたいつもの席に着いた。
みんなが何ともなしに彼へと視線を送る中、僕は彼に注文の品とプレゼントを届ける。
しまったと思ったのは彼の表情を見たときだ。
カウンターに戻ると皆に怒られた。しかし、ボンヤリと窓の外を眺める彼を見ているのは痛ましい。
だからという事ではないが、思いついたことを口にする。
「そうだ、逸貴くん。冬休み、暇ならバイトしない?」
「え?」
帰ってきたのは、言葉とも取れないような声だった。
唐突すぎたらしい。
「一人くらい欲しいなって思ってるんだ。募集するほどではないんだけど」
言い訳するように付け加えたが、いまいち効果は薄そうだ。
「あ、じゃあマスター。俺やりますよ、俺」
「キミにまかせると、店が潰れそうだ」
「ひどいなぁ」
横から関係のない者が割り込んでくるのを簡単に流す。
「僕は逸貴くんに来て欲しいんだよ」
最後の一押し。
「私もイツくんみたいな子いたら毎日通っちゃう」
「キミはもう、毎日来てるだろう?」
「あれぇ?」
「考えておきます。ご馳走様でした」
女性客の言葉に彼は微笑み席を立つ。当然のように、カウンターに勘定を置いてゆく。
その視線が一瞬だけ横に置かれた瓶に行った。
やはり彼には聞かせよう。
彼女にしたのと同じ話しを。
15年前のクリスマス、一番最初のお客は空色と夕焼け色の小さな瓶だった。
彼女は今もここにいる。
中身の手紙は毎日新しいものをいれていた。
扉に手を掛けた彼に呼びかける。
「逸貴くん」
振り返り、目が合ったのを確認してから笑いかける。
「メリークリスマス。またおいで」
゜☆・*。・★・゜・☆・*。・★・゜*。・☆・*。・★・゜・☆・*。・★・゜
ごめんなさい。本日とっても長いです。
力入りすぎました・・・笑。
そして、暗いです。
ついでに分かりづらいです。
でもわざとだったりします。
「彼女」という表現で違う二人の人物さしてますが。
その切り替えをあいまいなままになってます。
ページが変わるってだけの分かりづらさ。
今回の共通点は見つけるまでもない感じで・・・。
でも、実は1つじゃなかったりします。
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